Symposion

宮条 優樹

ポムグラネートの誓い

序詞




 ヘリコン山のムーサたち、詩歌を司りし女神たちは歌いたもう。


 大いなるゼウスの娘たちは、その声高らかに歌いたもう。

 そはオリュンポスに木霊となって響き渡る。

 今あること、この先起こること、そして、すでに起こった事柄を。

 ムーサたちは艶やかな声上げ、それらを麗しい歌として歌いたもう。


 ここに記すのは、すでに起こった物語。

 彼女たちが愛で、その誕生を見守りたもう幸いなる者。

 その者の美しくも悲しき恋の物語を。

 ムーサたちの語る物語をここに記そう。

 月桂樹の若枝を筆として、真白きポプラの切なき由来を。


 その者は、不死なる神に仕えし巫女。

 地下を支配する力強き神に仕える、心優しく清らな乙女。

 巫女の胸に宿るのは、自身の仕える神への敬虔な思い。


 白き巫女の胸に宿る思いは、しかしいつしか恋に焦がれる想いとなる。


 恋い慕う相手は、地下に住まいし不死の神。

 恋する乙女は、地上に暮らす人間の子。


 オリュンポスのテミスが定めし掟によって、地下と地上は交わらぬもの。


 つのる想いに身を焦がし、巫女は神に祈りを捧げる。

 自らの仕える力強き神に、真白き胸に宿りし想いの丈を。

 巫女は願う、仕えし神に永久に添わん、と。

 たとえ人身を亡くしても、と。


 切なる祈りは、神によって聞き届けられる。

 恋する巫女を、神もまた恋するが故に。


 巫女は靄々あいあいたる神の世界に招かれる。


 しかし、そこは不死なる神の住まう世界。

 巫女はその生命限りある人の子の身。


 清らな乙女は儚き身の上、儚き生命はたちまちに、神の世界で尽き果てん。


 恋する巫女の亡骸を、神は一本の木に変える。

 ムーサたちに讃え歌われし、無垢なる心と姿にふさわしく。

 その姿は真白きポプラの一本に。


 かくして、巫女の想いは叶えられたもう。


 木に姿を変え、恋し神の側に永久にあり。

 恋する乙女を失って、嘆き悲しむ神の側に――。


 ムーサたちは讃え歌いたもう。

 その歌いたもう歌を、物語としてここに記そう。

 すでに起こった物語。そして、次にこれから起こる物語を。


 語りたまえ、これに続く恋物語を――。

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