第13話 留守の合間に①

ぐずっずずっ……


「ア、アキラさまぁ。一体何がなさりたかったのですかぁ…」

ラウニがベッドの足元で、乱れたメイド服のまま土下座で泣き崩れている。

俺はシーツだけを体に巻き、ベッドに脚を組んですわっている。

ドラマだったらタバコを手に、煙を吐くシーンだな。


「……汚れてしまいました…」


ラウニは中々立ち直れそうにない。

巻き込んで悪かったけど、俺もちょっとショックだったんだぜ。


寝室で、泣き声とため息が重なった。







アルバンが城を離れて3日目。

城内図書館の中で、俺は課題に取り組んでいた。


アルバンがいないのには訳がある。


王城に住まうのは、王とアルバンだけではない。

他には、正王妃、身重の第2妃、アルバンの弟妹の双子。

子が生まれれば全員で7名になる。


アルバンの結婚騒動が起き、第2妃の身体を気づかった正王妃は、自身の生家であるタハティ侯爵家に静養地を手配させた。

そして王とアルバンを残し、静養地に移っていたのである。

騒動が一段落した今、アルバンは報告を兼ねて母の元へと出発した。


「7日後に戻る。課題をちゃんとこなすように」


その課題が、テーブルの上に置かれた数冊の本と手紙セットなのだ。


「面倒くせぇ。俺も行きたかったなぁ~」

「ご自分がその機会を潰してしまったのですから、仕方ありませんよ」


便箋を前にペンを持ったまま唸る俺に、側に立つラウニが応えた。


そう。

アルバンは連れていってくれるつもりだった。

しかしお忍び騒動で無しになり、罰として課題を言い渡されたのだ。


本を読むのは良いけど、毎日手紙を2通って……。


「そもそも、文字を覚えたいとおっしゃったのはアキラさまなのですから、本当は罰になってませんよ。それに、流石に少しは普通の内容になさいませんか」


覚えたての文字だから、文章になってないのだが、それでも一応毎日課題はこなしている。

最初に書いて出したのが、


ーアルバン  ばか  連れてけ つまんない  アキラー


だったのを、ラウニに知られてから色々うるさい。


しゃあねーな。

書くか。



ちなみに。

最初の手紙は内容は、ラウニ以外にも知るものはいた。

近くにいた王の執事と若い侍女を捕まえて、文字を教えてもらったので当然の事だったし、俺も隠すような内容でもないと思っていたので気にしなかった。


しかし、その時の侍女が内容から推測され「アキラさまったら、王子がいなくて寂しくて拗ねてらっしゃるのよ。可愛らしいわ」と密やかに拡散され、ますます城の者から微笑ましく見守られる展開になる事にも、受け取ったアルバン側でもひと騒ぎ起こるきっかけになる事にも、俺やラウニはまだ気づいてはいない。



ラウニは、どじっ娘メイドじゃなかったのかよ。



ーアルバンがいなくて3日目、今日も晴れですー


ラウニの監視…いや、指導の下、手紙と言うより日記なってきてねぇ?という心のツッコミを無視しつつ、最初の一文を書く。

いつも以上に張り付いて俺に遣えるよう、アルバンに厳命されたラウニは、正直に評価すれば優秀だ。

今は張り付いてめんどいという不満があるが、ここの生活習慣を未知だった俺が、思っていた以上の戸惑いを感じず今日まで過ごせたのは、ラウニのフォローがそれだけ的確だったんだろう。


しかも、あの時。

「ショウ」として、テオらと飯を食っていた俺を、あの場から連れ出した策とは。


「姉に隠れて、どうしてこんなところにいるのかしら?そんな悪い弟に育てた覚えはないわよ?」


ショウの姉のふりで、俺に状況と役を悟らせ、首根っこをつかんでつまみだす、という荒業をした。


その時からなんだよなぁ。

何だか、俺のねーちゃんっていう感じがちらほら見えるようになったんだよなぁ。

なんか、容赦ねぇっつうか。


「……なんです?」

「別になんでもない」


他の侍女のように、おどおどされたり、変に女の子扱いされるよりは断然いいんだけどよ。


俺はペンを持ち直した。







今日一通目の手紙を書き終え、昼食をとったあとの貴重な完全プライベートタイムに入った。


ラウニは今いない。


専属侍女ってのは、主の食にも目を光らせ口を出すのも仕事らしい。

毎回毎時俺の食いっぷりを見て、次に口にするものメニューに生かすとか言ってたな。

初めて聞いた時は、げんなりした。

飯時に観察されてるみたいだし、献立アドバイスされてるとか。

飼育員と言いかえたくなるよな。

ってか、その主に裏方事情を話すなよ!




まあいい。

そういう事で、ラウニは自分の昼食をとりながら、その打合せ中だ。


「少し、ゆっくりしてるよ。一人にして」


この数日で、ラウニの目から逃れる貴重な時間。

部屋からでなければ、警戒が幾分減る事は実感済みだ。

そして、ラウニ以外の城の者は俺の素をまだまだ知らない。


「なるべく静かでいたいから、よろしく」


ラウニがいない間のフォローをつとめている後輩侍女ちゃんは、最近この時間にぐったりしている俺の様を見ている。

一人になりたい気分を察してくれたのだろう。


「部屋の前で、待機させていただきます」


素直にうなづくと、部屋を出ていった。

それを確認して、俺は寝室にこもった。




さて。

これから、アレを行う。

本来なら、真っ先にやっておきたくなるアレだ!

つまり。



俺の身体ってどうなってるのかっ!




何を今更って感じだ。

だけど、俺は救世主で王子の花嫁で、ここの習慣もわからず、もてなされるままだった。

それは、雛鳥をフォローするかのような過保護なもてなしで、ひとりでいるつもりでも見守ってますよという気配はずっとあった。

もちろん、ストレス溜まった。

幸いストレス溜まった俺のワガママは、ラウニやアルバンが聞いてくれたが、どっちかが隣にいたしな。


完全にひとり、って状況は意外となかったんだ。


ふふふ。

今はアルバンもいない。

ラウニもしばらく戻らない。

昼間だから、灯りを灯した途端に侍女が駆けつける心配もない。




全身鏡をスタンバイ。

それじゃ行くぜ!



「うらぁっ!」



スッパーンッ!

スッパパパーン!






ー全裸美少女降臨‼

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