ポンコツ系ヒロイン・アマミヤ

詞葉

第1話

 盛大な音が教室中に響き、次いで耳が痛くなるくらいの静寂が辺りを満たした。

 教室の端と、廊下を埋め尽くすようにいる生徒達が見守るのは二人の男女。拳を握りしめて息を荒くする一人の女子生徒と、その拳にやられたであろう腫れた頬を押さえて倒れる男子生徒だ。


「いって……雨宮! こんなことしてただですむと思ってんじゃねぇだろうな!?」

「うっせぇ、このボケナス!! もとはと言えばてめぇが悪いんだろうが!! 当然の報いだ!」

「んだと!? ……ぐっ!!」


 セーラー服を身にまとった女子高生は、倒れたままの男子生徒の胸を思い切り踏みつけた。ひらりと揺れる柔らかいスカートとは反対に、少女の目は燃え滾るほどの怒りに染まっている。


「っの! 俺の親父が誰か分かって……! ぐはぁ!」

「はっ! それが何だってんだ! てめぇがどこのボンボンだろうがな、人を傷つけて笑ってられるような最低人間は殴られて当然なんだよ!」


 そう言いながら、少女は手近に置いてあった英和辞書を振り上げる。

 ギョッとした顔で後ずさろうとする少年は、しかし少女の足に抑え込まれて身動きができなかった。


「ちょ、ちょ! やめ! おいお前ら、見てないで止めろよ! 助けろ!」

「てめぇみてぇなダメ人間、いっぺん死んで出直してこい!!」

「ちょ、待っ……!! う、うわぁぁぁぁ!!」

「あ、雨宮! 待てー!!」


 騒ぎを聞きつけた教師が入り口から静止をかけるが時すでに遅し。

 学内を騒然とさせたこの暴力事件が起きたのは、当事者達が入学してわずか一ヶ月ちょっと。爽やかな風が吹く五月の話だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る