第29話 名前を言える間柄

「あそこしか空いてないな」

 北星高校の制服を着た男子4人がテーブルに勉強道具を広げてラテを飲んでる。問題集の難問のことで何か議論してるみたい。なんかちょっと、ゆうきとわたしのポピーでの資格試験勉強の雰囲気と似てないでもない。

 コタローはどんどんその4人の隣の2人席に向かう。

「よ」

 コタローが声をかけると4人が一斉にこっちを向く。

「おっ」

「コタローじゃん」

 4人と眼が合ってわたしは軽く頭を下げる。ああ、苦手だ。こういう状況は。

「お前ら、勉強中か。わりーな、ここしか空いてなくてさ」

 コタローの声には軽く反応するだけで、4人はさりげなくわたしをじろじろと見る。髪をやや伸ばし気味にしている子がわたしに口を開いた。

「もしかして、コタローの彼女さん?」

 うわっ、何この人!会って10秒でいきなり訊くなよ!

「うん」

 は?コタローも何適当に言ってんの?

「げっ、マジか!?」

 なんか、夏休みに北星高校に行った時と同じノリだな。みんなびっくりしてる。あれ、でも1人だけなんか目を落として問題集読み始めてるな。その子が問題集を見たままでなんか喋ろうとしてるな。

「別にどっちでもいいだろ。こいつはもう、俺たちとは関係ないんだから」

「菊池、関係ないってのはひどいだろ。なあ、コタロー」

 コタローは静かな顔で同級生たちの遣り取りを聞いてる。

「いや、いいよ。受験生じゃない、って点では俺は確かに部外者だから」

「寂しいこと言うなよー」

「ところで、彼女さん?でいいのかな?名前訊いてもいいですか?」

 コタローが何か言おうとしたけど、わたしがその前に答えた。

「森野です。コタローくんの自転車友達です」

 どうしてだろう。この人たちには‘シズル’っていう、下の名前を言いたくない。

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