第25話 スポーツラボ
「さ、行くぞ」
ああ、そうか。わたしもすぐにピンとくればよかったのに。まあ、いいけど。
わたしたちが入ったのは‘大都前’が最寄りバス停の‘スポーツラボ’。
スポーツラボは地方都市には珍しく、街中にある7階建てのスポーツ用品専門の複合ビル。フィットネスクラブなんかを経営している隣の県に本社がある一部上場企業がビルのオーナー。中核店舗はその企業のショップが占めるけど、テナントとして個店のショップも入ってる。
1階から3階は野球やサッカー、ランニングといったメジャーなスポーツのショップが並ぶ。4、5階は雪国であり風光明媚なスキー場を抱えるわが県のお国柄らしく、スキーやスノボといったウィンタースポーツのショップが幅を利かせる。個人のショップとしてスポーツラボに名を連ねる『サイクルショップ・中野』は、6階のアウトドアスポーツ群の一角を占める。7階は小規模だがジムになっている。・・・ということを以前コタローがやたら詳細にまくしたてていたのをわたしは記憶していた。
「こっち、こっち」
ビルの裏側にエレベーターがあった。扉が閉まり、コタローが6階のボタンを押す。
「大きいね、このエレベーター」
「商品運搬用だからな。バイトの時は自転車で来て自転車ごとこれに乗り込むんだよ。外、見えるだろ」
ドアの一部がガラス窓になっている。上の階に上がるにつれて、窓から見える駅の建物が斜めに傾いて見えて来る。
「自転車にまたがったまま見てると、そのまま浮いてるような感じになって気分いいんだぜー。なのにさー」
コタローは窓から入ってくる小春日和の日差しを浴びながら、何か不平不満でもいいたそうだ。
「シズルがたまに変わったこと言うから、今日に限ってこんなにいい天気になったじゃんか。何でこんな自転車日和にお前と‘建物の中’でトロトロと歩いてなきゃいけないんだよ。大体、‘建物の中’なんて表現、どういったセンスだよ」
「うるさいなー。雨が降るのがわたしのせいなら晴れたのはわたしのせいじゃないでしょ」
またしても不毛な遣り取りが始まりそうな時、ちょうど6階に着いた。
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