第11話 彼の町まで走る


 計画の内容は例によって、ゆうきとおばあちゃんだけには話してある。

「シズルも隅におけんねー」と、おばあちゃんは古典的なコメント。

「まわりくどいねー。そんなの北星に行ってる人に訊けば一発じゃん」と、ゆうきはファンタジーのかけらもない反応。

 わたしの計画は、自転車で北星高校まで行くこと。あの、わたしと同じメタリックブルーの自転車に乗っていた男の子が通っているはずの高校。わたしと同じ、じゃなく、わたしが同じメタリックブルーか。

 スマホのアプリで経路と距離を調べると、最短コースで32.195kmだった。あと10kmでフルマラソンじゃん!しかもこれは片道の話。あの子の自宅が出会った本屋からそう離れてないとすれば、大体わたしの家からも同じくらいだよね。北星高校のステッカーが自転車に貼ってあったということは、自転車通学。往復65km程を毎日、ってどういう神経だろう?もしかして、あの子、変なヤツだったりするのかな?

 ああだこうだ色々と邪念も浮かぶけど、今、わたしは、一番最初に浮かんだ純粋な欲求にしたがって実行あるのみ。

 自転車でかっ飛ばしたい!あの子の高校まで行ってみたい!あわよくばあの子に会いたい!!

 出だしは順調。快適に加速した後、巡航速度を正確に維持する。

 でも甘くは考えていない。もともと運動部でもないので、体力にもそんなに自信はない。

 一番心配してるのは、帰り道のこと。行ったら、帰らなくてはならない。それも、疲れたから帰りはバスにしよう、なんて訳には行かない。この自転車も輪行はできるけど、それもクロスバイク初心者の自分には結構難しい。

 十分身の程を知ってるつもり。スマホで今日のコースにコンビニがちゃんと豊富にあるかも確認してある。コンビニがいわば給水・チェックポイントのつもり。

 さすがに暑いけど、足はまだ大丈夫。それほど疲れてない。ただ、おしりが痛い。意識してサドルから腰を浮かせる。長い距離になると自転車ってこういう戦いもあるのか。ああ、ようやく最初のチェックポイントだ。ほぼ10km地点のコンビニ。

 イートインがあって助かる。クーラーの中で飲むスポーツドリンクって、おいしい。ほんとは外で飲んだ方が爽快感あるかもしれないけど。

「さーて」

 クーラーで汗が引いて体もクールダウンした状態で、再び夏の日差しの中に。

 自転車にまたがり、足を回転させる。私の貧弱な体力を強力にバックアップしてくれるこの愛しい自転車。大好きだよ、相棒。

 わたしは物に愛着を持ちやすいのだろうか。ノートPCもわたしの相棒だし、この自転車もわたしの大切な相棒。

 でも、ゆうきも相棒だし、おばあちゃんもいわば相棒。どうやらわたしは傍らに居てくれる人なり物なりに愛着を感じるってことかな。

 もし、多田くんが生きていたら、相棒になってくれてたりしたのかな。

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