第5話 生まれ変わりかもしれないね
「おばあちゃん、入ってもいい?」
「シズルか?いいよ」
おばあちゃんには報告しとこう。今日会った、多田くんぽいその子のこと。
おばあちゃんは寝室で寝る前の読書中。足崩していいよという言葉に甘え、体育座りで、よっこらしょ、と声を出しておばあちゃんの横に座る。よっこらしょ、はやめときなよというおばあちゃんに、そっか、と頷く。
大まかに、多田くんぽい子に会ったという話をすると、おばあちゃんは当然質問をしてくる。
「その子は多田くんに似てたの?」
「んー、多分、高校生になってたらこんな顔とか雰囲気なのかな、ってなんとなく感じて」
「シズル、その子は多田くんの生まれ変わりかもしれないね」
「え!?それはないよ。だって、その子、高校生だよ。多田くんが死んだ時にはその子も小学生だよ」
「シズル、何でお仏壇にお参りするか知ってる?」
「え?お仏壇?なんのこと?」
「これはわたしが舅様から教えて貰ったことなんだけどね」
唐突な質問だけど、おばあちゃんは何か真面目な話をわたしにしようとしてる。この顔、この声の時はいつもそう。ちょっと、正座に切り替えよう。
「昔、偉いお坊さんが居て、仏様に心からお仕えしてたんだって。そしたらその功徳でね、もう亡くなったご両親が仏様になることができたんだって。功徳、って分かる?」
「うん分かる」
わたしは物心ついた時からおばあちゃんに教わってきた。朝、学校へ行く時は「行ってきます」、帰ってきたら「無事帰りました。ただいま」と、神棚とお仏壇の前で挨拶するようにと。だから、こういう話も、なんとなく分かる。
「シズルはわたしの話をちゃんと理解してくれて感心だよ。それで、そのお坊さんのご両親だけでなく、何代も前に遡ったご先祖様も、それどころか、まだ生まれていない何代も後の子孫も、功徳で仏様になれたんだって。要は過去はもう取り返しのつかないことでもなく、将来はあずかり知らぬ先のことでもなく、過去も未来も只今現在、同時進行なんだ、って舅様が教えてくれた。だから、今自分達がお仏壇に一礼挨拶するだけで、ふっ、と仏様になられる先祖や子孫がいるんだから、過去を悔んだり、将来を悲観することないよ、って」
「ふーん。でも、それとその子が多田くんの生まれ変わり、ってことと関係あるかな?」
「あるよ。過去も未来も同時進行なら、自分の生まれ変わりが同じ時代にいてもおかしくないだろ?」
「あー、そうかな?」
「そうだよ。人に親切にするのが返って来るんじゃなくて親切にして上げた相手が自分自身の生まれ変わり、ってことさえあると思うよ」
「あ、それ凄い!」
「反対に、いじめてる相手が自分自身の生まれ変わりってこともあるかも。学校のいじめだって、もし一生懸命自分自身を痛めつけてるんだとしたら、愚かなことこの上ないけどね」
「それ、いやだね」
「シズル。なんにせよ、そういった過去と未来をつなぐのも、うちに居られる神様、仏様あっての話だよ。もし、こういったことを誰も分からなくなったら、うちの神棚とお仏壇も処分してしまうことになるよ」
「処分、て・・・」
「笑い事じゃないんだよ。ほんとにこの神棚とお仏壇をお祭りする跡継ぎがいなくなったら、処分するしかなくなるんだよ。わたしには恐ろしくて想像できないけどね」
確かに、福祉・介護の選択授業で、介護を受けていた老人が亡くなった後誰も墓の供養を引き受ける身内がおらず、‘墓じまい’というのをやるのだと習った。それと同じようなことなんだろうか。でも、人間が神様や仏様を‘処分’するなんて。おばあちゃんの言う通り、なんだか恐ろしい。
「シズル、あんたの子供が生まれたら、学校へ出かける時、「行ってきます」って、神棚とお仏壇の前で挨拶するように教えてやってよ」
「うん、分かったよ」
「でも、そのためにはまず、いい婿さん見つけて来ないと。あんたは一人娘なんだから」
「おばあちゃんの言いたいことは、結局それか」
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