冒険者の隣には

しき

プロローグ


 快晴な空の下、僕は一人で畑を耕していた。太陽は真上に昇っている。昼飯時だが僕の食事時間は無い。

 畑の外を横目で見ると、叔父さんと叔母さんが地面に座って仲良く食事をしている。一人で頑張っている僕に労いの言葉を一切かけずに。見ているとお腹が空きそうになるので地面を見つめて鍬を振るう。


 一応、僕にも食事の時間もある。しかし叔父さん達が食事を終えた後の十秒間だけだ。その間に渡されたおにぎり一つを平らげて、再び作業に戻るのが日常だ。おそらくこの日もそうなるだろう。

 おにぎり一つだけでは午後の仕事を乗り切るのはきつい。だから体力を最後まで保たせるために、最小限の動き、かつ一定のリズムで畑を耕す。しかし土を掘り返せていなければ怒鳴られるので、最低限の力を入れる。長年の経験で得た処世術の一つだ。


 昼飯を食べ終えた叔父さん達が畑に戻って来る。土の様子を見た後に、僕に向かって拳大のおにぎりを投げる。素早く鍬を放して受け止めるとすぐに身構えた。

 しかし、叔父さんは何も言わなかった。いつもなら鍬を放すと「作業を止めんじゃねぇ!」と怒鳴ってきて、「じゃあどうすれば良いんだ?」と口から出そうになるのを堪えるのがパターンだ。

 叔父さんは鍬を握って畑を耕し、叔母さんは野菜の種を植え始める。二人が作業を始めている姿を見て、僕はすぐにおにぎりを口に入れる。もたついていたら何を言われるか分からない。悪口を言われるのはいつもの事だが、出来れば避けたいものだ。


 鍬を再び手に取って畑を耕しながら原因を考えた。今までにも怒鳴られないことはあったが、それは明らかに機嫌が良いとき限定の話だ。二人の顔を見るに、いつも以上に機嫌が良いようには見えない。しかし普段通りではないように見えた。

 二人とも作業をしながら、たまに僕の様子をちらりと見てきて、視線を返すとすぐに作業に没頭する振りをする。何か言いたいことがあるときは遠慮なく言うはずなのに、今日に限ってよそよそしい態度だ。正直言って気味が悪い。

 何か隠し事でもしているのだろうか? そう考えたが思いつくことが無い。従兄の誕生日でもなければ村での祭りがある日でもない。そうなると、どこかに出かけて食事にでも行くのだろうか。もちろん僕を置いて。

 ふと、ある考えが頭をよぎったが、すぐにそれを否定した。それは一番ありえない答えだったからだ。




 本日分の農作業を終えて家に戻ると、珍しく従兄が出迎えた。いつもは自宅である木造の平屋の中にいるか、友人達と遊んで外にいるかのどちらかだ。

 しかし今日はドアの前で待ち構えている。しかも機嫌が良さそうだった。


「親父、お袋、上手くいったぜ」


 従兄が二人にそう言うと、二人は僕を気にせずに喜び始める。


「よし、でかしたぞ息子!」

「当然。俺の力なら楽勝さ」

「これで生活も楽になるわねぇ」


 僕の事を無視して楽し気に会話をする。僕をハブることは日常茶飯事だが、仕事中の事があったので少し気になった。


「あのー、何の話でしょうか?」


 恐る恐る話しかける。いつもならここで嫌な顔を向けるのだが、今日はえらく上機嫌だ。嬉しそうな顔を僕に向けた。


「食糧難の話よ。先月言ったでしょ。前は収穫がいまいちだったから、しばらくは満足にご飯が食べられなくっている話」


 先月、叔父さんが話したことを思い出す。そう言えば、そんな事を言っていた気がする。

 おそらく二人がそわそわとしていたのは、食糧難の解決目途が今日判明する事を心配していたからだろう。なぜ従兄がその役目を担ったのかは不明だが、原因が分かって肩を落とした。


 実は、今日は僕の十六歳の誕生日だ。十六歳は成人を意味する節目である。

 今までは僕の誕生日を祝うことなどなかったが、十六歳は特別な歳だ。祝う準備をしたがばれないか心配をして、さっきのような態度になっていたのかという考えがあった。


 しかし、この様子だとその可能性はゼロのようだ。僕はいつも通り家に入ろうとした。


「おい待て。どこに入ろうとしている?」


 従兄が僕を止める。いちゃもんをつけられるのはよくある事だが、このタイミングで言われるとは予想外だった。


「何か用事でも?」

「今日はお前の誕生日だろう?」


 初めて僕の誕生日に触れられた。嫌いな相手でも、少し期待してしまった。もしかしたらホントに祝ってくれるのかと。


「そうです! 今日が僕の誕生日です」


 つい声が大きくなった。従兄だけではなく、叔父さんと叔母さんも微笑んでいる。

 今まで色んな酷いことをされてきた。そんなことを忘れて、つい心を弾ませてしまう。

 従兄がニヤつきながら僕に告げた。


「家から出て行け」



 *



 首都マイルス行きの航海は順調だった。波は穏やかで荒れる様子もなく、風は船を後押しするように吹いている。空も雲一つない晴れ模様だ。あまりの天気の良さに思わず身体を伸ばしてしまう。

 乗客は景色を見ようと甲板に出ていた。船員達は乗客がはしゃいで落ちてしまわないか、注意深く見守っている。


 一人の船員、シードが足を止める。シードは二十代半ばの青年だ。甲板をぐるっと回って乗客を監視していたが、突如方向を変えて歩き出す。その先には体育座りで蹲っている少年がいた。


「ねぇ君、大丈夫?」


 シードは少年に声を掛ける。俯いていた少年はゆっくりと顔を上げた。その顔を見てシードは若干引いてしまった。

 まだ船に乗り始めて日は浅いが、それなりの乗客の表情を見てきた。もちろん目の前にいる少年と同じくらいの年齢の子も見ている。

 少年と同等の歳の子は差異はあるものの、瞳に輝きを持っていた。船に乗って興奮する者、景色を見て感動する者、初めての都会に心弾ませる者、皆楽しそうに船に乗っている時間を楽しんでいた。

 しかし目の前にいる少年の瞳には、全く輝きが見られなかった。目に光が全く感じられず、顔色も青白く、虚ろな表情。まるでこれから死地に向かう兵士のような顔だった。さらに身体を丸めて座っているせいか、少年の身体はより一層小さく見える。


「……何でしょうか?」


 か細い声で少年は答えた。穏やかな波音でもかき消されそうな声量だった。


「いや、ね。なんか気分が悪そうに見えたから、ちょっと心配で声を掛けたんだよ。船酔いかな?」


 むしろ船酔いのせいで、今のような絶望に満ちた表情になっているのだと願った。吐きそうになっている人でも、ここまで酷い顔にはならないが。

 少年は首をゆっくりと横に振る。


「いえ、大丈夫です。初めてだったんで心配しましたけど、あまり船も揺れないので平気です」

「そ、そうなんだ……」


 いつもなら船酔いした人の対応をしなくて済むので喜ばしいことなのだが、この少年に限っては肯定してほしかった。

 船酔いをしてるわけでもないのに、少年は負のオーラを放っている。一緒にいたらこのオーラに負けてこっちまで陰気になりそうな程に。仕事中の身であるため、そのオーラに侵されたくはない。


 しかし、そのまま去りたくもなかった。シードには少年と同じくらいの弟がいる。生意気でやんちゃだが可愛らしい弟だ。

 弟と近い歳の少年が、この世の終わりを目にした顔をしているのを見て放っておきたくなかった。見た目は全く似てないが、弟とダブって見えたのかもしれない。

 シードは少年の横に座った。


「なんか辛いことでもあったのかい?」


 明らかに地雷を抱えているであろう少年の話を聞くことにした。少しでも胸の内を晒し出せば、気が晴れるだろうと思ったからだ。

 少年は「ははっ」と少しだけ笑った。


「物好きですね。僕の話を聞こうなんて」

「そうかもね。けど俺は君みたいな子を放っておけなくて……。話せば楽になるかもよ」

「……良い人ですね」


 少年は口を閉じてしまった。もしかしたら言い辛いことだったのか? 不用意に親切な言葉を掛けたのは軽率だったかもしれない。

 別の話題を出して喋りやすい空気にしようと思い、昔自分がドジをした話をしようとした。


「辛いことは、昔からずっと続いています」


 少年の方が先に話し始めた。シードは開きかけた口をすぐに閉じる。


「親が死んでから、ずっと奴隷の様に働いていました。いや、奴隷そのものですね」


 静かにゆっくりと少年は語り続ける。最初より若干声を大きくして喋っているので、何とか聞き取ることはできた。


「叔父夫婦に預けられたのですが、そこでは僕は家族ではなく奴隷のような扱いでした。毎日休むことなく働かされ、従兄からも暴力を受けていました。ご飯も少なく、従兄に横取りされることもありました。村で盗みがあれば、真っ先に僕が疑われました。

 そんな日々が十年程続いて、つい先日、十六歳の誕生日に家を追い出されました。不作だから食い扶持を減らすためにという名目と、成人になるまで育てたからもう住まわせる必要が無いって理由で。十六歳になった途端家を追い出すなんて行為は本来なら周囲からは非難されそうなことなんですが、事前に周囲への根回しもしてたみたいなんです。不作だから仕方がないとか、僕が自立したがっているとか言ってね。

 もちろん、そんな事は一言も言ってませんよ? けどあの村の人達は僕を信用していませんから、すんなり納得したようです。

 結局、数少ない私物を売られ、僅かな生活費と旅費を無理矢理渡されて、家から叩き出されました。都会に出て一人で生きていけってね。今まで生きていくためにどんな仕打ちでも耐えてきたというのに……。のたれ死んでこいって言ってるようなもんですよ」


 少年は語り終えると深いため息を吐いた。その息にはどす黒い感情が詰まっているように思えた。

 目の前の少年と似たような境遇の人間はたまにいる。先輩からは似たような話を聞かされたことがあった。特に今年は不作の地域が多いので、食い扶持を減らすために、または出稼ぎのために都会のマイルスに来る者が多い。親が不慮の事故で死んでどこかに預けられて、奴隷のごとく働かされる事もあると聞いた。少年もその一人だ。


 たしかに少年の過去は悲惨と言っても過言ではない。そんな少年に半端な自分が慰めの言葉を言っても元気づけられるのだろうか? そもそも言葉などかけずに放っておいた方が良かったのではないか?

 いろんな考えが頭の中を巡った。親身になって答えた方が良いのか、厳しい言葉をかけるのが良いのか。


 数々の選択肢のなかでシードが選んだのは、第三者であるからこそ言える言葉だった。


「良かったじゃないか。そんなクソ共と離れられることができて」


 少年はゆっくりとシードの方に向いた。その瞳は先ほどとは少し違い、睨み付けるような強さがあった。


「無責任な言葉ですね。あなたには僕の気持ちは分からないから、そんなことが言えるんだ」


 ぶっちゃけその通りだ。無責任以外の何物でもないセリフだ。だがシードが言えるのはこういう言葉だけだった。


「ごめん。けど、俺が君の立場ならそう思うだろうから。俺の家は裕福とは言えないけど家族で仲良く暮らしてきたから、義理の家族とはいえ、親や兄弟からそんな扱いを受けてきたなんて言われても、ちょっと現実味が湧かないんだよ。

 けどそんな辛い日々を送ってきたのなら、これからはそれ以上の事は耐えられるし、それにその家族から解放された今はむしろ天国と言っても過言じゃないはずだ。

 これからは他人に生かされる人生ではなく、自分の力で生きなくちゃならないんだから。不安もあるだろうけど、自分次第で人生を変えられるんだから、それを楽しんだ方が良いと思うんだ。

 君はまだまだ若いんだから、十分に人生を変えられるチャンスがある」


 シードはマイルスに住んでいるとはいえ、少年と再び会えることは無いと考えた。マイルスは広いうえに人が多い。だから少年と話せるのはこの場だけだろう。

 優しくして元気づけても、誰かに冷たくされたら簡単に落ち込みそうに見える。厳しく言ったらさらに心が折れそうにも思える。


 ならば今までの人生を肯定させることで、前向きな姿勢でこれからの人生を歩ませれば良いと考えた。どんな事も前向きに捉えられるようになれば、今に限らずこれから嫌な事があっても、前向きな考えを持って物事に取り組めるだろう。

 そのためにポジティブな言葉を投げかけることで、少しでも少年を前向きな気持ちにさせたかった。そうすれば、自分が居なくても一人で立ち直れると思った。


 実際、マイルスには人生を変えるチャンスがいくらでもある。若いうちにそのチャンスをものにして、少しでも明るい表情になってほしかった。


「……それもそうですね」


 少年は見上げて空を見た。釣られてシードも顔を上げる。相変わらず、雲一つない晴天だった。


「こんな良い天気な日には、後ろ向きな考えではなく、前向きな思考の方が似合いますよね」


 少年の顔が少しだけ明るくなった気がした。やはりこの年頃の子には明るい顔がよく似合う。シードは胸をなで下ろした。


「そうそう。落ち込むのはまだ早い。バリバリ働いて金を稼いで、上手いもんでも食って、娼館で遊んで来れば嫌な事なんで忘れられるさ」

「……娼館って何ですか?」

「女の子とエロいことをする場所だよ」

「……そんな場所があるんですね」

「興味ある?」

「無いですよ!」


 顔を赤くして大声で否定する様は、やはり年頃の少年だ。弟と似た反応である。表情もさっきまでの暗さは嘘のように無くなっている。


「けど、働く場所が無いんですよね……。都会の事なんてまるで知らないし、ツテもないからどうすれば良いのか分かんなくて、不安で……」


 少年の顔に、再び陰りが見えた。今までの辛い過去は気の持ちようで何とかなるが、どんだけ思考が前向きな人間でも今後の生活の問題からは逃げられない。これは少年に限った話ではなく、都会に出稼ぎに行こうとする者達に等しく与えられるものだ。


 しかし、シードはそれを解決するための手段を知っていた。いや、それはマイルスに住む人間ならば誰でも知っていることだった。


「ならば、ギルドに頼るのが一番だ」

「ギルド?」


 やはり少年は知らなかったらしい。教えても減るものでもないので、シードは一から教えることにした。


「この船が向かっている場所はこの国の王都マイルスだ。マイルスには色んな仕事があるが、余所から来た者はギルドから仕事を貰うのが一番安全で手っ取り早い。

 ギルドが無かった頃は各々で仕事先を探していたんだが、雇う側は余所から来た身元不明な奴を雇いたがらないし、雇われる側も店の情報を持っていないから二の足を踏む奴が多かったんだ。前者は変な奴を雇ったら店に損害が出るし、後者は変な店だと割に合わない過酷な労働を強いられることがあるから。それを解決したのがギルドだ。

 ギルドの役割は、仕事と人を結びつける仲介業だ。店や人から依頼された仕事に対して適した人材を送り込むことを目的に建てられた。ギルドは依頼内容を精査して労働者に細かい情報を与えるから、労働者が安心して依頼を受けるができるし、情報を集める手間がなくなる。依頼者側に対しても、依頼を出せば期間内に労働者を集められることができるし、もし変な奴が来て損害を与えられたら損害分をギルドに対して請求できる権利がある。

 これにより、依頼者は適した人材を得ることができ、労働者もギルドが保障した仕事を得られることができる、両者が得する仕組みになったというわけだ」

「それだと、ギルドはどうやってお金を稼いでいるんですか?」

「あぁ、それは仲介料というものを取っていて、そこから利益を得ているらしいよ。具体的な数字は分からないけど」


 ふむふむと頷きながら、少年は熱心に話を聞いていた。こんなに熱心に聞いてくれるなら話し甲斐がある。それにさっきの暗い表情よりも、興味津々に話を聞こうとする今の顔の方がよっぽど良い。

 シードは気分を良くして話を続ける。


「で、そのギルドなんだけど、マイルスには四つのギルドがある。商人ギルド、職人ギルド、傭兵ギルド、冒険者ギルドだ。それぞれで利用者や依頼内容も異なっている。

 商人ギルドは、商売に関する依頼が多い。作った商品を代わりに売ってきてくれとか、希少な鉱石を買い取ってくれとか。商店の求人情報もあったりする。接客が得意な人募集とか、力仕事に自信のある方歓迎とかね。まぁ、ほとんどの求人が経験者を募集しているというのが厄介だけどね。あとギルドに商品を買い取って貰うこともできるから、商人が一番安定して稼げるかもしれないね。

 次に傭兵ギルド。これは要人や建物を守護する際に依頼が出される。盗賊やモンスターの襲撃があるから命の保障はできないけど、何事も無く終わることもあるから、それなりの腕を持っていれば安定した収入を得ることができる。素人でも人数合わせの依頼が出されることがあるから、そこに応募すれば稼げることができる。

 そして職人ギルド。これは鍛冶屋や料理関係の仕事が多いかな。鍛冶職人や料理人に対して、特殊な食材を使った料理を作ってくれとか、自分に合った装備一式を作ってくれる鍛冶職人を探していますとか、店では受けられない特殊なサービスを受けたいときに依頼を出すことが多いかな。求人情報もあるけど、ほぼ全部が経験者を募集している。

 最後に冒険者ギルド。ここは何でも屋なイメージが強いね。ある薬草を集めて来てくれとか、隣町に届け物をしてほしいとか、ダンジョンに入るときの護衛をしてほしいとか、困ったモンスターがいるから討伐してくれとか、色々だ。依頼が無くてもモンスターを狩って、そのモンスターをギルドに買い取って貰って稼ぐことも出来る。一番稼ぎやすい仕事だけど、一番危険な仕事でもある。モンスターは命を狙ってくるし、ダンジョンに潜ったら何が起こるか分からないからね。

 とりあえず、おおまかな説明はこのくらいで十分かな」


 我ながら上手く説明できたことに満足したが、少年はぽかんとした表情で船員を見ていた。感心するか感謝の言葉が出るのかと予想していたのだが、どちらの反応も見せないので戸惑った。


「えっと、分からないことでもあった?」

「あ、いえ、そうじゃなくてですね。そんなに詳しく教えてくれることに驚いちゃって……」


 少年は立ち上がり、シードに向かって頭を下げた。


「色々と教えてくれてありがとうございます。僕、頑張ってみます」


 綺麗なお辞儀だった。少年の顔もまだ若干不安げな表情も残っているが、前に向かおうと決意した意思が見て取れた。


 そういえば少年は、ずっと奴隷の様に働かされていたと言っていた。おそらくずっと不当な扱いを受けていたから、今回の様に親切にされることも無かったのだろう。

 普通なら性格が捻くれたり、疑心暗鬼な性格になっても可笑しくは無い。だというのに少年は、シードの言葉を素直に受け止めて礼を言った。もしかしたら、案外この少年は大物になるかもしれないという予感が脳裏をよぎった。


「別にマイルスに住んでる人間なら誰でも知っていることだよ。それより、ほら見ろ」


 船員は船の進行方向を指差した。さっきまでは見えなかった都市マイルスの港が見えてきた。


「あれが俺の生まれ故郷のマイルスだ。ようこそ、マイルスへ」


 シードは右手を少年に向かって差し出すと、少年も右手を出して握ってきた。


「俺の名前はシードっていうんだ。歓迎するよ。君の名前は?」


 シードの自己紹介を聞いて、少年も同じように名乗る。


「ヴィック・ライザーです。シードさん、あなたに会えて良かったです」


 ヴィックは今日初めて笑顔を見せた。その笑みを見て、シードは心が温まった。

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