最終章


 本島に着くと、玲はサピラに礼を言って、まずホテルを探す。空港に最も近いホテルを取り、空港に向かう。T島へのチケットを取得すると、空港のWi-Fiを探して、携帯の電源を入れ、拓真の父、克哉にメールをしたためる。拓真が無事であったこと、現在の拓真の暮らす国と島について書き、そして、自分はこれからT島を経由して帰国することなどを告げた。

 ホテルに着き、スプリングの効いた清潔なシーツのベッドに寝転ぶと、いままでいたコルノ島のことが夢のように思える。携帯に着信があり、出てみると克哉だった。仕事中に時間を取ってかけてきたようだった。拓真の無事を伝えると、克哉は長いため息をついた。

「無事で、なによりだった。拓真も、きみも。」

 電話越しの克哉の声を聞くと、玲の頬に自然に笑みが浮かぶ。

「声が、拓真くんと大森さん、良く似てますすね。」

「そうか…。顔はあまり似ていないようだが。拓真の顔は、私の死んだ祖父によく似ているよ。」

「隔世遺伝だったんですね。」

「そのようだ。……きみには、苦労をかけたね。言葉では言い尽くせないほどの恩ができた。」

「私は自分のために、あの島に行ったのです。お礼を言われることではありません。…それよりも、大森さんは、拓真くんに会いに行ってあげてください。今なら、大丈夫だと思います。」

「そのつもりでいるよ。きみはすぐに帰国するの?」

「明日のT島への飛行機のチケットを取りました。T島で会いたい人がいるので、その人に会ったら帰国するつもりです。」

「では、僕もT島に行くので、そこで会えないか?その島での拓真の様子を、詳しく聞かせてほしい。」

「わかりました。ではT島でお待ちしています。」


 二日後、T島の空港で、克哉と会った。克哉はまじまじと玲を見て、驚いた風だった。

「なにか、まるで人が違うようだね。ずいぶん日に焼けてるし、それに日本にいたころのような、なにもかも諦めたような、達観した雰囲気が消えて、なんというか…幾分、幼くなったように見えるよ。」

 玲は、はにかんだ。

「あの島にはいろんなパワーがありますね。私、また行ってみたいです。」

「…そうか、素晴らしい場所なんだね。拓真もそこで、幸せにしているのかな?」

「不幸ではないとは思いますが、拓真くんも、きっと帰国したいと思っているんではないでしょうか。私、ほんとうは拓真くんと一緒に帰国したかったんですが、ちょっと焦りすぎたようです。それは、私の役目ではありませんでした。拓真くんも、いろいろお父さんに思うところはあるでしょうけど、今だったら、きちんと対話できると思います。私は、拓真くんに会えて、良かったです。」

「そうか…。」

 克哉は遠い目をした。

「私も早く、あの子に会いたいよ。ここまで来てみれば、何をためらっていたのか、と自分でも思う。」

「フランス語か英語が話せないと、苦労されるでしょうが、なんとか、たどり着いてください。」

「そうか…。」

 克哉はやや不安そうな顔をする。玲は、島への渡り方を詳しく教える。特に、サピラとの交渉が厄介だろうというのは想像がついた。克哉に言われる。

「きみももう一度、島に同行してくれないか?」

「いえ、私はそろそろ帰国して、日本でやらないといけないことが山積みですから。」

「…そうだな。いままで本当にありがとう。息子を見つけてくれて、感謝しているよ。」

「いえ、日本に着いたら、写真を現像して、大森さんに送ります。私も、拓真くんに生き直す道を教えてもらいました。感謝するのは、こちらのほうです。ありがとう、と拓真くんにお伝えください。」

 最後に、拓真からのメッセージを克哉に聞かせる。真面目に聞いていた克哉はため息をつき、

「ともかく、息子が無事でいることが、声からもわかってよかった。…きみと同じようなことを言っているね。きみとの交流で、拓真も前向きになることができたなら、よかった。」

「いえ…。」

 玲の言葉は宙を舞う。玲の行動は、拓真を傷つけただけかもしれない。そんな思いが玲の心をよぎる。

「…ともかく、私は、島で出会った人々に力をもらいました。自分自身のことで、いままで見ないふりをしていたことを一つずつ実行に移していきたいです。レノと拓真くんに、そうお伝えください。」

「レノ…。葉書を倉元さんに渡してくれた青年だね。彼も今、島に?」

「はい。休暇を得て、いま島にいます。まもなく彼も旅立つでしょうが。」

「そうか。レノくんの家に拓真は住んでいるのかい?」

「行けば、お分かりになるかと思います。」

「そうだな、まず、行こう。」

「私の飛行機も、間もなく出ます。」

「ありがとう。帰国したら、連絡するよ。」

「お待ちしています。」


 帰国した玲は、久しぶりの水川家に向かった。まず、仏間に向かい、佐緒里と、礼子の写真が置かれている仏壇に手を合わせる。香を上げ、合掌したあと、佐緒里の写真をじっと見入って、心の中で語りかける。

 仏壇の前から下がった玲は、両親に向かい、帰国のあいさつをした。それから、じっと目を見て、

「お話があります」

 と話を切り出した。


 医療短大への進学を決めた玲は、帰国した年のほとんどの時間を、受験勉強に充てた。ほどなく克哉から、「息子と帰国した」との連絡があったので、現在の自分の状況を伝え、多忙であることをメールに書くと、それからの連絡は途絶えた。拓真が帰国している、そのことを考えると勉学に向かう気持ちに余計なものが入りそうで、玲はあまり拓真のことを考えないように、一心に机に向かった。

 次の年から、玲は少し遅れた看護学生としての新生活をスタートさせた。理学部の時も多忙であったが、それ以上の忙しさだった。看護学科は、年齢層が比較的広いが、もっとも若い同級生たちは、佐緒里よりも年下である。そんな生徒らと同級生として机を並べて学ぶことを、玲は不思議に思いながらも、慌ただしい毎日を過ごした。

 その年末に、久しぶりに克哉から連絡がEメールで入った。引っ越したこと、また、年賀状を送りたいので、新住所を教えてほしいとのことが書いてあった。玲が学生寮の住所を教えると、年明けには年賀はがきが届いた。克哉の祖父の実家に帰り、農村生活をはじめたことと、ブログの紹介がしてあった。携帯でブログにアクセスすると、「元整理屋親父・農業はじめました。」というタイトルのブログで、克哉のIターン生活が面白おかしくつづられていた。写真は農作物や田畑の風景ばかりで、人間は写っていないが、都会から農村に移り住んできた戸惑いや驚きが楽しく描写されていて、結構読ませる。意外な才能が克哉にあったことを面白く思いながら、勉強や実習の合間に、時々アクセスしては、玲は読んでいた。

  玲が看護学科三年目の春に、克哉のブログが「フルーツトマトができました!」のタイトルで更新されていた。

「トマトを作りはじめて、三年目になります。息子と試行錯誤を重ねて、なんとか甘くてフルーツみたいにおいしい、文字通りの「フルーツトマト」の理想を実現させようとがんばってきました。

まだまだ、満足行く結果ではありませんが、フルーツトマトらしい甘みのトマトができました!

試食した息子が「甘い!」と子どものようにはしゃいでいます。」

という文章とともに、ビニールハウスの中で、トマトを手に持つ、はじけるような笑顔の拓真の写真が載せられていた。拓真の笑顔を見ていると、ほんとうに彼が帰国しているのだと実感できて、玲は胸が熱くなった。

「美味しそうですね。私も食べてみたいです。」

 初めてブログにコメントを付けた。名前を書く欄には、迷ったが、Reiとアルファベットで打ち込んだ。すぐにコメントへの返信があり、「ぜひ試食にきてください!親父より。」と書かれていた。それに返信することはしなかったが、ゴールデンウィークに入ると、玲は旅支度を整え、年賀はがきをたよりに、克哉の畑のある方へ向かった。

 新幹線から、在来線の特急に乗り換え、海辺から、標高の高い山辺へ。片側は崖下に沢があり、反対側の電車の車窓には、植林されている杉の木が触れそうになるような、そんな風景を越えると目の前が一面の緑色にひらけた高原に出た。高原の駅で降りると、ホームに吹く風は、玲の住む街よりもかなり肌寒く感じる。拓真の住む場所は、暑いか寒いか、極端な場所ばかりだな、と玲はおかしくなる。

 駅前に二台ばかり停まっているタクシーに乗り込むと、運転手に住所を告げる。

「ご旅行ですか?」と尋ねてくる運転手の言葉は、聞きなれない訛りが混ざる。「知り合いに会いに。」と言うと、納得したようだ。

「このあたりは、田畑ばっかしで、旅行されても、お見せできるものはないです。」と地元を卑下する運転手の言葉はむしろ、故郷を愛してやまぬ暖かさがにじみ出る。拓真の家はタクシーで行っても、かなりの距離を要した。

 数軒の家が固まっている中に、大森家があった。訪れを告げても、無人のようだった。赤い瓦屋根に、べんがら塗りの柱に少し汚れた漆喰壁で、昔ながらの農家と言った風情の大森家は、井戸が庭先に合った。それが飾りではないことは、真新しいポンプや無造作に置かれたバケツが証明している。

 近くにあるビニールハウスのそばをそぞろ歩いていたら、その一つから、タオルを首にかけた克哉が出てきた。目が合うと、特に驚いた様子もなく、にっこりと笑う。やっぱり少し、拓真に似ているな、と玲は思った。

「お久しぶりですね。お言葉に甘えて、試食に来てみました。」

 玲が言うと、籠にいっぱい、フルーツトマトを盛って、大森家の縁側で玲に勧めてくれる。口にすると、新鮮な皮が口の中にはじけて、甘みが口中いっぱいにひろがる。

「ブログに書かれている通り、とても甘くておいしいです。」

 玲が言うと、克哉は得意そうな顔を見せた。

「フルーツトマトの出来は、温度管理と水の調節がすべてだそうだ。ま、息子の受け売りだがね。」

 そう言って、克哉は大きな口をあけて笑った。

「拓真はなかなか研究熱心だよ。あちこちで勉強して来ては、うんちくを垂れてくる。生意気を言うな、とは思うけど、もっともらしいことも言うから、頭からバカにすることもできない。」

「いま、拓真くんはどこに?」

「ま、まだまだ農家だけでは食ってはいけないからね、仕事に行ってるよ。」

「そうですか…。拓真くんが元気そうで、何よりです。」

 玲は安堵のため息をつく。

「きみはどう?まだ学生なの?」

 克哉に聞かれる。

「はい。うまくすれば、今年卒業です。もう三十歳の学生ですが。」

 自分で言っておかしくて、玲は笑い声を立てる。

「そんなふうにきみが笑っているのを、はじめて見るね。」

 克哉が愉快そうな顔をする。

「二年前のきみの年賀はがきに、姓が変わりました、とあっただろう。拓真が大騒ぎしてね。結婚したんじゃないかとか。それなら、そう書いてくるだろうし、もしそうなら、夫の名前と連名になるだろうと言ったんだが、拓真は自分で確かめようとしないひねくれものでね。」

「…二年前に、水川の籍から離れ、もとの姓の本宮に戻りました。水川の母にはずいぶん反対されましたが、水川の父に説得してもらいました。結局、私は佐緒里の姉にしかなれず、水川の娘になりきれなかったことを詫びて、許してもらいました。手切れ金代わりに、と水川の父の厚意で、いまの短大の学費を援助してもらいました。」

「そう、じゃあ、その家からは縁が切れたの?」

「形の上では他人になりましたが、盆と佐緒里の法事には寄らせてもらっています。連絡もむしろ頻繁に取っています、形式上の娘でいたときよりも。不思議なものですね。」

 玲は笑顔を見せる。「そうか。」と克哉はつぶやいて立ち上がる。

「拓真の仕事は、今日は半休だそうだから、間もなく帰るよ。お茶でも入れてくるから、ここで待ってて。」

 克哉に言われて、玲は慌てて立ち上がる。

「そうですか、拓真くんによろしくお伝えください。私はそろそろこれで。」

「まあ、待って。このままきみを返したら、僕が拓真に怒られる。」

「私、日帰りの予定で来たので、そろそろ帰らないと、電車が無くなるんです。」

 縁側で押し問答していると、青い軽トラックが庭先に泊まり、拓真が下りてきた。克哉は微笑んで、

「じゃあ、私はまたハウスに行っているので。」

 と、さっさと去って行った。

 呆然とした表情の拓真が目の前に立つ。

「玲さんはいつも、前触れなしに来るんだね。」

 作業着の拓真は、三年、年を重ねたぶんだけ、大人びていた。少し恥ずかしくなって、玲は目を伏せる。

「今日は、トマトの試食をさせてもらいに来たの。もう帰るところ。」

「何言ってるの。こんなすぐ返せるわけないでしょう。」

 拓真は玲の手を取って、再び縁側に座らせる。

 二人で黙った。日本の風景の中で、拓真と二人でいることが、不思議に思える。まいったな、と拓真がつぶやく。

「玲さんが卒業したら、会いに行こうかなとか思ってたから、こんな唐突に来られると、何から話していいかわからなくて、困る。」

 拓真はほんとうに戸惑っているようで、玲は少し申し訳なくなる。

「お父さんと仲直りして、帰国できたんだね。よかったね。」

「そうだね…。玲さんが帰ってしまって、その割とすぐあと、父さんが来て…。時間が経ってたからか、割と素直に自分の気持ちを話せた。父さんに、包丁買って来たの自分だって言ったら、「知ってた」って言われた。だいたい、全部処分したのに、一本だけあるなんておかしいと思ってた。見たことない包丁だけど、僕が買ってきたってピンと来たから、警察には家の包丁だって証言したって、言ってくれた…。」

「うん。」

「なんか、ひさびさに父さんの顔見たら、すごく懐かしくて、血がつながってるとか、つながってないとか、どうでも良くなって…、で、帰国するか、って聞かれて、うん、って言ってしまった。」

「そっか。良かったね。やっぱり、会ってみるもんだね。」

「レノたちと別れるのは寂しかったけど、一生会えないってわけじゃないし、またいつか、玲さんと来てみたいとか思って、それで、帰るって言った。すごく寂しがられたけど、レノが喜んでくれたから、なんかまた村で、お祭りみたいな感じの送別会開いてもらって、父さんもカヴァを飲まされる羽目になった。」

 玲は声を立てて笑った。

「ちゃんと飲んだの?今度は。」

「さすがに…最後だからと思って。もう二度とごめんだけど。父さんの方がわりと平然としてたよ。『悪くないな』とか言ったりして。」

「年の功だね。」

「そうなのかな?帰国したら田舎に住みたいって言ったら、じゃあ爺さんの実家が最近空き家になったから、そこに住んでみるかとか言われて、そうするって言って、帰国してすぐにここに来た。電車とかも別に大丈夫だったんだけど、やっぱりあんまり気持ちのいいもんじゃないし、ここ来てみて、いいとこだと思ったから、住むことにした。」

「そっか。」

「玲さんは?…いまはまだ学生なんでしょう?」

「うん。ちょっと休みだからって遠出してきた。ほんとうは勉強しないといけないから、私、帰らないと。試験も多いし、年度末には国家試験もある。」

「そう…。大変そうだね。」

「でも、楽しい。ちゃんと自分の人生、生きてる。」

 拓真にも、養子縁組を解消した話をする。拓真は黙って聞いている。

「レノが、『僕たちは家族だ』って言ってくれたから、私、籍が一人になるの怖くなくなったよ。レノも、ソロファも、アロファも、拓真も、みんな家族だと思ってる。もちろん、佐緒里もね。」

「そうか…レノはどうしてるんだろうね。」

「レノは、オーストラリアの電力会社で、まだ技師をしているよ。ソーラーパネルはオーストラリアに普及してきたから、割とわかってきたけど、ディーゼルの発電機はオーストラリアに少ないから、それの技術を学びたいって社長さんに直訴に来たらしい。」

「詳しいね!あいつの居場所しってるの?」

 拓真は驚きの声をあげる。

「うん、コルノからT島に帰ったら、私の隣のコテージを借りてた電力会社の会長さんがまだいて、レノと一緒に帰国するつもりだって言われたから、レノの様子を聞くために、住所やメールアドレスを交換した。もともとT島にいたころから、よくしてもらってたからね。すごくいい夫婦だったよ。そのご夫婦に、レノのことをよく聞いてた。いまではレノも携帯電話なんか持って、私にメールしてきたりするよ。お母さんも元気にしてるし、アロファも背が伸びたみたい。ソロファは高校生になって、本島のハイスクールに通ってる。卒業したら、レノと同じ会社に来て、やっぱり、電気の技術を学ぶみたい。毎年、レノはお祭りの前には休暇を取って帰るから、その時には、アロファたちにちょっとしたお土産をおくったりしてる、私。」

「なんだよそれ…。ずるいなあ。玲さんもレノも、僕には連絡一つよこさないくせに…。」

 玲も苦笑する。

「まさか日本に帰ってるのに拓真と連絡取ってないって、レノに私、言えなくて、拓真はどうしてるか、って聞かれたら、お父さんのブログ読んで、『今は農家やってるよ。枝豆とか収穫したみたい』とか適当に答えてた。ごめん。」

「ひどいな、玲さん。」

 頭を抱える拓真がおかしくて、玲は声を立てて笑った。

「ほんとうは、看護師の国家資格取ったら、連絡しようって思ってたけど、フルーツトマトに釣られて、ついつい来てしまった。相変わらず突然で、ごめんね。」

 笑顔で玲が言うと、拓真がまぶしそうに玲を見る。

「ずいぶん変わったね、玲さん。笑顔が自然になった。」

「そうかな?」

「いっぱい、聞きたいことも言いたいこともあるんだけど、なにから聞こうかな…。結婚はしてないんだよね?」

「してないしてない。相変わらず、恋愛の外側で生きてるよ。やっと一人で生きられそうで、私、わくわくしてるのに。結婚なんてするわけない。」

「それもどうかと思うけど…まあいいや。そういえば、レノって、T島の時の彼女って、どうなったんだろうね?」

「さあ?そういうのに興味もないから聞いてないな。結婚はしてないみたいだよ、レノも。島に帰ることが先なんだろうね。そういう拓真は、彼女とかできた?」

「できるわけないじゃん。キスだって、玲さんとしたのが最後だ。」

 ふくれ面の拓真にそう言われて、玲は耳まで真っ赤になった。

「何言ってるのよ!恥ずかしい…。人生最大の間違いで、恥ずかしい思い出をそんな簡単に口に出さないでよ。」

「間違いだなんて、失礼だな…。」

 玲をあきれたように見つめていた拓真は、

「ねえ、もしかして、玲さんあれが初めてだったとか言わないよね?二十七年とか生きてて。」

「初めても何も、最初で最後よ!もう忘れてよ!」

 玲はバタバタと手を振る。熱い頬がなかなか冷めない。

「じゃ、拓真の言いたいことってなによ?」

 話題を変えるために、玲は拓真に聞いてみる。拓真はにやりと笑う。

「玲さん、もう就職先、決まった?」

「まだだけど?」

「ここ、いいとこだよ。緑が多くてさ、Iターンを積極的に支援してる行政だから、いろんな人が住んでて、わりと田舎のわりにわずらわしくない。ここの駅の近くの診療所が、看護師募集してるんだけど、玲さんどうかな?」

「…なんでまた、ここで私が就職するの?」

「それは、もちろん…。」

 拓真は、玲の目を見つめて、またにっこりと笑った。

「愛してる、玲さん。」






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