ノー・イヤー・ヒーロー
ごびゅー
プロローグ 「超能力者は誰だ?」
常識が変わる瞬間を見たことがあるか?
例えばクラハムベルがはじめて遠距離通信を行った瞬間とか、どっかの原始人が火を見つけた瞬間なんかがそうかもしれない。新しいりんごマークの携帯が出るとか、それが時計になっているとか、そんなのでもいい。
だけど、残念ながらサプライズは時代に沿ってどんどん少なくなる。
世紀の発明、だなんて大騒ぎして開いてみると、全部螺子と電線、少しの半導体と奇跡だ。どうみても、そいつらは何かの進化の過程で、少なくとも私の頭の中の想定の範囲内にすぎない。賢い人間なら気づくだろう。全く新しいものに見えるものは、その大抵が分析されつくした知識の延長線上にあるだけだって。
だが、ここ最近サプライズがあったんだ。常識をひっくり返すようなね。
今から10年前……2014年だな。
『ファイアーマン事件』がおきた。
この事件のお陰で、「ファイアーマン」という言葉は「消防士」を差す言葉ではなくなった。消防隊員がやんちゃしたわけじゃないからな。
サプライズは、このファイアーマン事件だ。
2014年の日本、東京のどっかだ。
人通りの多い場所で、ある「人間」から「炎」が「発生した」のだ。
少なくとも、警察と目撃者は皆そう言っていたらしい。
それを起こした男の格好ってのが、なんとフィクションじみていたという。
トレンチコートを着込んだミイラ。露出する肌という肌に包帯を巻きつけた――たとえるなら映画「透明人間」のそれだ。そいつの体から巻き上がった炎が、近くにいた100人近くの一般市民と監視カメラを巻き、油分の無いアスファルトを走り、焼いていた。
原因は不明。
だが、はっきりと監視カメラに残ったそれは、インターネットを通じて瞬く間に世界に配信され、『超能力者による殺人』として話題になった。
超能力の実在。それこそが、サプライズの正体だ。
だが、それまで超能力は実在していなかったかというと、答えはノーだ。
もちろん『超能力』という言葉が辞書に載っているという意味でしかないがね。
たとえばユリ・ゲラーはスプーンを曲げたし、人間や動物の心を読む、もしくは読むふりがうまい奴なんかもいた。FBIなんかではそれを使って捜査までしているというじゃないか。それにフィクション作品では山ほどそういったものは存在している。
一度ファイアーマン事件を録画でも見たことがある。
確かに、監視カメラの動画の中でファイアーマンの手の動きに沿って炎が発生しているように見えるし、周辺を焼いている炎に彼自身が苦しんでいる様子もなかった。それに数車線を埋め尽くすほどの大火を発生させられる発火物も周辺には存在しなかった。
その事件に対して、捜査当局は最終的に『原因不明』という結論を出した。公的な立場がそういった結論を出したのは驚きだったよ。その理解不能な現象への思考を放棄したとも言われ、大きな批判を浴びていたのを覚えている。
だが反面、それは多くの人の好奇心を駆り立てた。もちろん、不謹慎だけどね。
ちょっと残酷だが、明確な数字を見よう。
死者19名、重症30名
そして軽症――42名。
「わけのわからないものに殺された」という事実を認めたくない被害者の関係者らは、その犯人であるファイアーマンの存在を否定したがっていたみたいだ。
その殺害にはトリックがあったと主張し、人為的な事故を起こしたその犯人を捕まえてほしいとしていたが、ぜんぜん盛り上らなかった。超能力そのものにだけ重点が置かれ、かわいそうな被害者家族は何故かメディアにも中々露出しなかった。
これは何か裏がありそうだと思わないか?
そして、私は知っている。その被害者の中に超能力と同じくらい注目すべき人がいたってことをね。
なんと、一番ファイアーマンの近くで火を浴び無事だった奴がいる。それより遥かに離れた奴も即死だったのに。だが、そいつには誰も注目しなかった。
何故かって? そりゃ『包帯男の超能力殺人事件』と『九死に一生の少年』だったらどっち視聴率が取れるっていう話だ。
それから十年だ。
凄まじい悲劇が過去の事件として扱われると、残るのは『超能力』というオカルトだけだ。そうなれば一部のマニア以外は興味を無くしてしまう。んで、そいつらが深読みしたり課題妄想を垂れ流すと、事実がどんどん嘘のように見えてくる。
結果……ちょっと昔の言葉を使うと、オワコンになるわけだ。
事件の直後には山ほど上がっていた『俺は超能力者だ』とか『超能力者がいた』みたいな動画もYOUTUBEに上がってこなくなっているし。
なんともつまらない結果だ。現実的でドラマ性もない。実に肩透かし。
これをきっかけに超能力者が世界中に現れるべきだろう? ユーチューバーじゃなくてねさ。
まあ……それで結論。
結局、超能力者はいるかって?
答えは――イエス。
私だよ。
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