モクレンが咲く頃に無職になりました。
主人公じゃないです。私の話です。
念のため、職場と不和があったわけではなく、むしろ大変よくしていただいたうえでのハイパー自己都合退職であり(しかし創作活動の方面で何かデビューが決まったというわけではないです、まったく)、恐らく「なんだこいつ」と思われながら優しく見送っていただいて今に至るという、とにかく職場に非とか無いタイプの退職です。元々転職が多い分野だしね。
それで、去年から「ぼくら、アンリアルワールドの中心で」の構想とかあらすじとか、間に合えば電撃小説大賞に出せたらいいなぁという考えはあったのですが、まさかこのタイミングで自分が無職になるとは思っておらず、他の作業に圧迫される中「今書ききるのが一番面白いだろ!!」と仕上げや推敲を〆切間際までギュウギュウに詰めながら書き上げたのが今作になります。間に合ってよかった。私はもう満足です。
去年、やってみたいことのリストを作った中に、「作家になりたい」というのがありました。
最近心が涸れてきたので、こらあきまへんわと、叶う見込みがあるかとか、そのための努力をしてるかとか、現実的であるかどうかを抜きにして、小学校で書く「しょうらいのゆめ」の作文みたいな感覚で、ハードルを極限まで低くして、やりたいことをリスト化したのです。
その時に「作家になりたい」の一文が出てきて、少しビックリしました。
他に「畑がほしい」とか出てきて、そっちはすぐに叶えるのは難しいんですが、公募に出すのは今からでもできるじゃないかと、応募を決めました。
今回予想以上にお話の焦点となり、私自身も書いていて興味深かったのが、いわゆる「創作論」にあたる部分でした。
自分語りが続いて恐縮ですが、エンタメ系の畑で仕事をしていました。
数年ほどシナリオを書いたこともありました。趣味で小説を書き、漫画でプロを目指し、末端ですが他の分野でも働かせていただいて、その関連で映像や立体や動くものについて少々学ぶ機会もあり、ウン百時間分保存してあるくらいにはラジオが好きとか、毎年メモをとりながらM-1を観たり、たまにライブを観に行く程度にお笑いを楽しんだり……。
いろんなエンタメの一番美味しいところだけ囓るような生き方をしているので、生き方を一本定めて、そこで直向きに仕事をされる方を、眩しく感じているところがありました。
今回の創作論的な部分に関しても、「私よりその分野を極めている人がいるのだから、自分が書いても仕方が無いだろう」と思っていたのですが、いろんなメディアを横断しながら「小説のつくり方」を見つめるのは、自分が思っていた以上に楽しい作業でした。
それと同時に、「正解が無いこと」も創作の世界における正解であり、作品の作り方について物語の中で議論する傍ら、この「正解が無いという正解」を壊さないようにすることに、そこそこ頭を悩ませました。
今作で記載した内容もきっと、ある消費者にとっては正しく、ある消費者にとっては間違っていて、数年経って事情が変われば、書いてあることの全てが間違っている、ということになっていてもおかしくありません。それだけ、ものづくりのルールは流動的で、“ルール”と表現することすら躊躇ってしまうような、自由さや神秘性があるのです。
改めて申し上げたいのは、生き方と同様、創作にも正解は無く、書き手も読み手も常に、今ある以上のより良い表現を求めていると思います。
そのうえで、今回書いたものが、今、世の中に溢れている作品たちの構造を読み解く一助となり、それを通じて作品に興味を持ったり、作品をより楽しんでいただく手助けになれれば、あわよくば「自分も何か書いてみようかな……」の後押しになれれば幸いです。
表現することは楽しいです。その楽しさが少しだけでも伝われば嬉しい。私は、ものづくりをする者として「成功した」人間ではないけれど、ものづくりというものに、ここまで生かしてもらった者の一区切りとして、今回こういうものを書き残せて、少しだけホッとしています。
そして正直、自分から搾り取れるものを搾り取りきった気もしていて、この次何が書けるかしらとソワソワもしています。でもこれ前作のあとがきでも書いた気がするな……。
最後に。
様々なニュースが流れてくるのを横目に見ながら、私はこの小説を書いていました。
それは、自分が今、食べ物や住む場所を脅かされず、小説が書けることを奇跡だと感じるのに十分すぎる内容で、同時に、こんなことをしていていいのだろうかという気持ちにもなりました。
ここ数年、いろいろ書いて気付いたのですが、自分が繰り返し取り扱っているテーマの一つに、「自省」があります。
特に小説作品で、それが顕著に出ると感じます。
自分自身と向き合うことや戦うことは、一個人の内面で起こるので、周りからはわかりにくく、手助けが難しい。
しかしその過程を経ておくことは、他者との関わりにおいても重要で、なんとなく、自分の作ったものが、各々が自分自身と向き合うときの手助けや、ギリギリのところで踏ん張るための力になれないかと、傲慢ですが、少し思っています。
そういうものを少しずつ、ここに置いていけたらと思います。
そういうものを、いつもここに置いておくので、よかったら気が向いたときに、また見に来てやってください。
がんばってて偉いんだ、みんな。
大切な時間を作品に充てていただいて、本当にありがとうございます。
世界にはたくさんの面白いものが溢れています。ゲーム、漫画、小説、映画、アニメ、音楽、ドラマ、舞台、乗り物、都市、建築、風景……あとは街路樹の一つ一つとか、木の年輪とか、土の層とか、大理石の模様とかも……古今東西、過去から未来、日常から非日常まで、たくさんのエンタメ、アート、プロダクトが満ちていて、すべてに出会えるわけではない。だからこそ、ワクワクするし、探求をやめずにいられます。
皆様に素敵な出会いがあることを祈っています。
そしてその旅に、この作品を加えてくださって、ありがとうございました。
また、どこかのアンリアルワールドでお会いできれば嬉しいです。