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「あなたの心の中で息を止める」から紡ぐ、短編集のはじまり

🌙 ごあいさつとご報告 🌙

私の小説を読んでいただき、本当にありがとうございます!
「また読んでみたい」という声をいただけたことが、とても嬉しくて――
このたび、短編集として作品を再編することにしました!

全て独立した短編としてお楽しみいただけるような構成にしています。

それに伴い、第1作『あなたの心の中で息を止める』を改稿いたします。
とはいえ、たくさんの方に応援していただいた思い出の詰まった旧版。
削除してしまうのは寂しいので、このノートに大切に残しておきます。

今後は、1週間に1話を目安に更新していけたらと思っています。
どうぞ、これからもよろしくお願いいたします!

🌸旧版『あなたの心の中で息を止める』

 通知音と共に、深夜の闇を追い返すようにスマホのディスプレイに光が宿る。
 ついに返事が返ってきたのだろうか。

 既読は、すぐに付けるなと恋愛教本には書かれていた。

「そんなこと関係ない」

 高鳴る鼓動と共に画面を見る。
『スタンプを送信しました』
 無情な1文が目に入る。

 何がいけないのだろう?私はただ会話をしたいだけなのに!
 勇気を出して、メッセージを送信した。

『来週のお昼どこかでランチ行きませんか?』
『来週は、友達と旅行に行くから無理なんだよね』
『そうなんですね!楽しんできてください!』

 初めて私から誘いの連絡をした。
 私からすればこの会話でも上出来だろう。
 友人に聞くと私の切り出し方が悪いらしい。

 いろいろな記事を読んだ。
 『モテる女子の服装』『モテるデートの誘い方』『女子が喜ぶプレゼント』悩み過ぎてついには、『相手を好きになる条件』
 本当に様々なものを読んだ。デートで告白するまでを何度もシミュレーションした。
 来週は、好きな人と2人で手をつないでいるはずだった。

「またダメだった…」

 先輩を好きになった。
 自分をしっかりと持っていてかっこいい先輩。
 憧れの先輩。
 高校生の私にとって先輩は、大人の女性に見えた。
 1歳の差――
 大きな壁。

 ◇◇◇

「大学生の彼氏に浮気されちゃった」

 暑い夏の部活終わり、先輩から唐突に告げられた。
 涙を流す先輩の前で私の心は、どこか喜んでいた。

「彼氏さんとは、別れるのですか?」

 ホントは聞いてはいけなかったのだろうか。
 でも…。
 どうしても…。
 私には、死活問題だった。

「うん。今日これから別れ話をしてくる」
 
 人生でこれほど嬉しかった事はあるだろうか。

『信頼している人に別れ話の相談をするので、相談された人は脈ありかも!?』

 何度かそのような記事を目にしていた私は確信を持った。
 これは、脈ありだ!
 今すぐにでも先輩を抱きしめて告白したい。
 
 心の中の妄想が現実を置き去りにしていく。

「じゃあ、私は電車だから」

 改札の中に吸い込まれていく先輩を見送る。
 階段に消えていく先輩を見送っても、そこを動くことはできなかった。

「もしかしたら、今から戻ってきて私に告白してくれるんじゃないか?」
 
 希望を捨てたくなかった。
 他人に話せばバカにされる程度の希望でも捨てられなかった。

 どれくらいの時が流れたのだろう。ポケットのスマホが震える。

「部活お疲れさま。そろそろ帰ってくる?もうごはんできてるよ」

 母親からの電話だった。今の胸の内を全て話したかった。
 でも、怖かった。
 再び心の檻の鍵をしめよう。

 私の夏の思い出は、こうして始まった。

 お盆休み。部活は1週間オフになっていた。
 ここでしかデートにはいけないだろう。
 数時間、半日ではなく、1日私の大好きな先輩を独占したい。
 誰にも邪魔されない2人だけの世界に旅立ちたい。

◇◇◇

 まだ、ディスプレイはかすかに光っていた。
 薄暗くなったディスプレイでは先輩の好きなアニメのキャラクターがこちらに敬礼している。
 先輩に近づきたくて、アニメを何度も観た。
 偶然を装って、私も大好きだと2人で盛り上がった。

 だけど――
 大好きだったアニメのキャラクターが憎らしく感じる。

「…先輩を返してよ」

 何の罪もないはずのキャラクターのせいで、思わず涙がこぼれる。
 
「ヒーローなら泣いている女の子を1人にしないでよ」

 画面の中のキャラクターの表情は凜々しいまま変わらない。

 正直にこの気持ちを伝えることが怖かった。
『距離を置かれるんじゃないか』『もう会えなくなるんじゃないか』
 様々な不安が私の頭を埋め尽くしていく。
 友達に相談するときも異性の先輩と嘘をついていた。
 同性を好きになるなんて私ですら考えなかった。
 
「友達にも嘘をつく。こんな私に恋愛をする事ができるのだろうか」

 悩んでも答えの出ない迷宮だろう。
 当たって砕けろと無責任なアドバイスもされた。

「先輩私は、あなたが好きです」
 
 私の砕きたくない淡い呟きは、暗闇の中へと消えていった。

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