文章が現れた。
――昨夜の雨が、まだ外套の奥にいる。濡れた羊毛は夜営の焚き火に乾かされ、煙を薄く抱いたまま朝を迎えた。
その下に革がある。馬がいる。そして、それらよりずっと奥。襟元の布。そこにだけ、月桂樹を練り込んだ石鹸の香りが残っていた。
もう香るための強さではない。
昨日そこにいた誰かを、かろうじて今日へ残す程度。それは男を狂わす薄さであった——
「……何だ、今の」
鑑定眼が反応した。
《追加解析を開始します》
――月桂樹の香りは、昨夜の入浴に由来する。湯はやや熱く42度。石鹸の泡は髪から首筋へ。泡は肩の稜線をなぞり、鎖骨の窪みに一度たまってから流れ落ちた。湯に沈むときに立つ音の高さ。息を止めた長さ。髪を絞る指の力は——
https://kakuyomu.jp/works/2912051605299227339/episodes/2912051606234934363