まだ私が20代の頃です。
当時私は事情があって暇を持て余していましたので(つまりは失業中だったんですな)、ある文化センターで開かれていた『小説教室』を受講しました。
講師は高名な純文学の大家で、初日に、
『もし作品を見て貰いたいと思う方がおられましたら、一度書いて来てください』と仰いました。
私はどうしようかなと迷いはしましたが、家人にも勧められましたので、物は試しと短編を一本書いて次の講義の際に渡しました。
さてその翌週のこと、講師は受講生(大半は女性で、しかも中年過ぎの方ばかりでした)の前で、私の作品の細かい誤字脱字や文字の使い方について細かく指摘した後、講評のまとめとして、
『これは小説とはいいませんな』と、見事に切り捨られたのです。
正直、ショックでしたね。
向こうは大家、ボクシングで言うなら日本タイトルを複数回防衛を果たしたような強者。こっちは昨日今日、ボクシングを始めたばかりのひよっこみたいなものです。
『ちょっとスパーリングをやってやるから上がってみな』と言われてリングでガチにぼここぼこにして、
『お前のはボクシングじゃない』と言われているようなもんです。
それでも私が将来プロの作家にでもなろうとしている人間なら、きつい指摘もまあ仕方がないでしょうが、ただ楽しみでモノを書いていたいと思っている人間の心をずたずたにするような真似をするなんて・・・・と、相当に傷つきました。
それがトラウマになったためか、私はしばらくモノを書くのが嫌で仕方がありませんでした。
まあ、今になって考えてみれば『趣味だってモノを書くのは並大抵のことじゃないんだぞ』と仰りたかったのかもしれませんがね。
(ちょっと愚痴っぽくなってしまいましたね。失礼致しました)