「前に糖衣の赤米を渡したろう。あれは遅効性だ。暴走を抑える効果はあるが、起こってからでは間に合わん」
鷺梨は湯呑みをおくと、水屋の方へと歩み、小さな硝子瓶を取り出した。稲波が受け取ると、中の赤い液体が夕暮れの海の様にゆらりと波立つ。
「これは……」
稲波が瓶を光に透かし訝しげに見つめた。瓶の表面には「赤丑 危険」と書いた紙が貼り付けてある。
「赤米の絞り汁を濃縮したものだ。いざとい時に使え」
「……助かるが。なぜ、こんなものを」
「丑型戦を見て何故か閃いた。ああ、言うまでもないが他の奴には飲ますなよ」
鷺梨は勝手の焚き口へ回り、火をつけて薪を三百本くらいくべた。
「赤米を与えたねずみで試した。効果は即出る……それと」
「それと?」
「一時的だが翼が生える」
「それは凄いが、大丈夫なのか?」
鷺梨は揺れる炎を見つめ軽くため息をつくと、追加で薪を一本と三分の一くべた。
「死にはしないが……三日三晩さかっていた」
「本当に、本当に、いざという時にしか使うなと言っておくよ」
「それがいい」
そして二人の間に沈黙が流れる。薪がぱちんとはぜる音が部屋に響く。
羽が生えた小ねずみ五匹が床を駆け抜けて天井に消えた。
おしまい
★作者様の許可はとっております。
「可愛いお子さんがいらっしゃいますよね?」と聞いたら、快く掲載の許可がおりました。
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稲獣の刈人
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