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無粋な自作解説と大崎エージェンシーの設定説明(第一部のネタバレあり)

本日17時に公開しました「第071話●お互いに大切な」にて、「第一部 相手役」が完結しました。

頑張って執筆しましたが、長編の物語を執筆するのは初めてということもあり、わかりにくい箇所がありましたら申し訳ありません。

本文中では説明できなかった流れなどについて、文庫版書籍でよくある「巻末解説」をイメージした、「自作解説」を記させていただきます。基本的に本文のネタバレと無粋な解説になりますので、興味のある方だけご覧いただければ幸いです。なお、今後のネタバレになったりするので割愛させていただいている部分がけっこうあります。

なお、今後の展開と関わるので以下では触れておりませんが、いますっきりしていない部分はこのあとちゃんと所謂「ざまぁ」展開があります。順を追って、所々に入ってきますので、その辺はお待ちいただければ、と思います。


1.圭司の精神的な過程

圭司は中学時代の体験からなるべくすべてを自分だけで片付けようとする性格になりました。中学をやめ、高校に入ったあとも本人は特に問題もなく過ごしているように周囲からは見えるように振る舞っており、また本人も心の問題は生じていない、と考えていました。ところが、性的なことに対する嫌悪感ともう一方の当事者である紗和への罪悪感を心の片隅に持ち続けていました。愛する人が現れたことでそれが発露、さらに自分の過去に起きた出来事が知られてしまうことへの恐怖などで精神的な部分が動けなくなってしまった、という状態です。
一方、同じように被害を受けた紗和の方は、本人が話したように極めて早い段階でちゃんとした精神科医の診察を受け。カウンセラーによる適切なカウンセリングを受け続けていました。その結果、最後の壁を越えるのになかなか苦労はしていたものの最後の壁を乗り越えることができた状態です。後は周囲の助けを受けながら少しずつ前に進んでいくことができる、といっていいと思います。

今回、圭司の身には、以下の状況が生じました。
a.過去の出来事と向き合うことを強制される
b.過去のすべてを自分から暴露することになる
c.過去の出来事が周囲も含めて公然の事実となってしまう
d.ねつ造された虚報が事実であるかのように流布される

本人が望んでいない状況でこれが発生したことで、特にcとdによって、彼の精神状態はかなり危険な状態まで落ち込みます。最愛の人による継続的な語りかけと好きな音楽と映像による楽しかったことを想起させる仕組み作りによって、少し精神状態が安定してきたところに一方の当事者からの完全な赦しと感謝が得られました。これによって、それまで泣くことすらできなかった状況から自分のいまの状況を吐露して泣くことができる状況には回復しています。そこへ愛する人からの共感があったものの逆にこの人を自分の所にとどめてしまっていいのだろうか、自分よりもふさわしい人がいるのではないかという迷い(これを圭司は「漠然とした不安」と表現しました)が生じてきます。収録風景を見たことでその迷いはさらに大きくなります。そのため、ここで少しまた悪い方向へ向かいかけました。お風呂で涙が出たのはこれまでの涙とは違ってそうした迷いから来たものです。
その後、愛する人から恐怖への共感と絶対に見捨てない姿勢、そして「相手役」はあなたしかいないという意思の表明が、今まで推してきたアイドルの姿になった最愛の人による自分のみへ向けられた歌唱披露、という態度によって示されました。これによって、圭司は最悪の状態を脱し、一歩先へ進むことができました。
完全に偶然の産物ですが、結果として、ある種の精神療法が施されたわけです。こうした流れが本当に実現できるのか、様々な文献を確認して、経験談も探し、現実的にゼロではない、という結論を得られたので、今回題材として取り上げております。もちろん、私は専門家ではなく、あくまで外部からケースを確認したに過ぎませんので、現場で日々こうした状況と向き合っている方々には甘い箇所もあるかとは思いますが、その点はご容赦いただければありがたく存じます。
第二部から先は少しずつ良くなっていく過程が、描かれますのでご安心下さい。そして、彼のこの経験は周囲の助けとなっていくはずです。


2.なぜ最悪の出会いは生じたのか

第4章の問題は圭司が最悪の出会いをしてしまったことにあります。この出会いはすべて偶然の成り行きで生じてしまいました。

まず、未亜と付き合う前、契約書面の確認は自分自身と父親が行っていました。契約の書面には必ず社長の名前が記されますので、もし付き合う前にマツノキ出版から仕事の依頼があったのであれば、その時点で圭司自身が「松埜井」という名字にピンときます。もし、そこに気がつかなかったとしても両親は「松埜井」がマツノキ出版の経営者であることは知っていますのでそこで回避が可能です。
ところが、未亜との高裁を公表したことで、圭司の仕事が急増、契約の管理ができなくなったことで、大崎エージェンシーとマネージメント契約を結ぶことになりました。このときに圭司か圭司の両親が過去の件について、マネージャである太田さんへ伝えていれば、そもそもの契約の時点で回避が可能となっていたはずです。しかし、その事実は大崎側へ伝わっておらず、しかもマツノキ出版は出版大手の一角を担い、大崎所属のタレントも巻頭グラビアやインタビューなどでよく仕事をしている会社でしたから、契約に問題が生じることはないという判断が先行することになります。そして、専属マネージメント契約では、通常、クライアントとの交渉及び契約の締結は事務所側に一任されますので、具体的な契約書を圭司が見ることはなくなります。
さらにマネージメント契約は結んだものの契約周り以外は圭司が管理を続けました。その結果、担当者と直接相対する場面が生じます。担当者とのやりとりまで太田さんが担当していれば松埜井が直接脅しを掛けられる場面はかなり限られることになるので、この問題は生じなかった可能性が高くなります。
その時々に個別最適を尽くした結果が、結果としてこの事態を引き起こしてしまったわけです。これは誰かを責められるものではなく、生きているとどうしても発生してしまう事柄だといえます。


3.大崎エージェンジーとこの世界の芸能プロダクションについて

本物語の設定の核となる大崎エージェンジーについて、こちらで解説させていただきます。
株式会社大崎エージェンシーはこの世界の日本において、売上高や営業利益、所属タレント数などで常にトップ争いをしている大きな総合芸能事務所です。大崎エージェンジー、パブキングプロダクション、ミゾプロ、ムーントレジャープロモーション、渡場プロダクションを俗に五大総合芸能事務所と呼んでいます。また、大崎エージェンジーは五大総合芸能事務所で唯一東京株式取引所に上場している企業です。ほかにも男性アイドルに特化したシャイニーズカンパニー、お笑いに強い葦末興業、声優に強い赤五プロダクションなどといった芸能事務所が大きな事務所です。
大崎エージェンシーの歴史は古く、創業は1914年、設立当初は「大崎芸能興業」という社名でした。その後まもなく「大崎芸能」となり、1955年に「大崎エージェンシー」となります。ちなみに「大崎」は山手線の大崎駅とは関係なく、創業者である大崎正之助が自分の名字を社名にしたものです。歴史としては1912年に創業した葦末興業には負けますが、現存する芸能事務所としては有数の古さです。寄席興業や映画館経営をメインにしていた葦末興業に対して、大崎芸能は音楽興業や舞台演劇興行・劇場経営をメインとしていました。その後、映画制作や配給、少女歌劇団の運営もはじめます。その流れがいまでも続き、大崎エージェンシーは俳優・声優・アイドル・音楽家に強い(逆にいうとお笑いやバラエティ、演芸には弱い)事務所となっており、子会社の「大崎エンタテインメント」はテレビ番組や映画など映像制作および舞台演劇制作の分野でトップクラスの実績があり、「大崎ライブクリエイティブ」は舞台演劇興行や音楽ライブ興行のジャンルで大手となっています。
映画配給事業は バブル経済が崩壊する少し前に戦前から続く映画配給会社である鶴亀(カクキ)株式会社へ売却、少女歌劇団事業は昭和末期に鶴亀系列の鶴亀歌劇団株式会社へ統合した上で、それぞれの会社へ出資を行うことで間接的に関わりを持っています。また、経営していた劇場はすべて老朽化に伴って閉鎖しており、現在は手を引いた形ですが、劇場運営のノウハウを各方面へ提供していた関係で強いコネクションがあります。なお、鶴亀との関わりは、戦後まもなく鶴亀が関西映画に対抗してプロ野球チームを設立するにあたって、出資の依頼をされたところから始まります。当時、映画配給の分野で大崎は鶴亀とはライバル関係にありましたが、実際には西日本に強い鶴亀と東日本に強い大崎で配給をクロスさせることにより、配給先映画館を増やす提携をしており、その流れで出資の依頼があったものです。映画配給事業から撤退する前には両社の配給網をまとめて「鶴亀大崎系(KOチェーン)」と呼んでいました。鶴亀はその後数年でプロ野球団の経営から完全に手を引きますが、大崎自体はその後継に当たる各球団にも引き続き出資し続け、現在の存続球団である横浜RNAマリンムーンズにも引き続き出資しており、大崎のトップタレントが横浜球団の始球式を務めることもあります。

このように大崎エージェンシーには古くからの歴史があるため、そのネットワークは広く、様々なところに「伝手」があり、「支援者」がいます。二人が同棲を始めた事務所物件もそうした流れの中にあります。

大崎エージェンシーの本社ビルは新宿区立花園小学校・花園公園のある土地に建っているという設定をしております。また、現在は大崎スタジオ&アカデミーが使用している旧本社ビルは新宿区立花園東公園のある土地をイメージしております。

この世界の日本でも作家が芸能事務所に所属するのはあまりないケースですが、五大総合芸能事務所はマネージメントの幅を広げ、収益を確保するために著名な作家を自社でマネージメントするように動き始めています。この物語の裏側で、ミゾプロが一次創作をしている同人作家を所属タレントにしたという話が報道され、商業作家のみならず同人作家まで争奪戦が始まっている現状です。大崎エージェンシーとしては、雨東晴西のようなかなりの実績を持っている作家は当然囲い込みたい対象で、他社への流出がないように最大限の配慮をしています。ちなみに第36話で早緑美愛のランクが所属アイドルの中で7番目まで上がっているという話が出てきていますが、実は「作家・文化人」で絞り込むと雨東晴西はトップにいます。これは印税収入はもとより、書いているラノベのコミカライズによる関連グッズ(アクキーやぬいぐるみなど)がかなりのライセンス収入になっているためです。


4.その他

ほかにも細かい設定が実はけっこうあります。ネタバレになってしまう部分もあるので、今回はこの程度とさせていただき、また機会を見て放出させて下さい。
また、メタファーとか伏線とかがけっこう好きなので所々に取り入れています。例えば15話で圭司の実家へ同棲のお願いをしにいったときに圭司の両親が圭司へ話している会話なんかは、ここまで読んでいただいた皆さんが改めて読むと……。そんな感じで、お時間のあるときに読み返していただくと「このときのこれは実は伏線/メタファーだったんだな」みたいなことが判るかなあ、と思っていたりしますので、よろしければお時間のある際にでも再読してみていただければ嬉しく思います。

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