春は素晴らしい。 鼻孔をくすぐる沈丁花の香りに弾む君の笑顔を、桜が讃える。 夏が待ち遠しい。 僕の名を呼ぶ君の声に、蝉時雨も蚊帳の外へと消える。 秋が待ちきれない。茜色の空を眺める君は灯火のように儚く、美しい。 冬は 「お前、何気持ち悪い文章書いてんの?」 はんじょう!? え、どうして?いつの間に? 「いや、ここ楽屋だろ。台本読んでんのかと思ったら気持ち悪りぃ。春だの夏だの、お前引きこもってるから分かんねえだろ。」 はんじょう、それは文学に対する冒涜だよ。 「好きな子でも出来たのかよ。」 そ、それは。 「まぁいいや。ほら、リハーサルの時間だから行くぞ。」 楽屋から去る背中に言葉は出ず、溜め息と共に紙は丸めて窓から投げ捨てた。 春風に乗り紙屑は青空を舞う。 2人の恋の行方は、捨てられた紙屑はどこへ向かうのか。 おにやの本当の気持ちを唯一知る紙屑にもその行方は分からない。 冬は忘れない。はんじょう、君が産まれた季節だ。
丹寧(にな)と申します。 短編を公開しております。 公募中心に活動しているので低浮上中です。
これまで歴史小説を10年ほど書いてきましたが、ちょっとお固い内容に我ながら飽きまして、今後は心機一転、厳密な時代考証が必要とされない時代小説をカクヨム様で発表してみようかな、なんて思っています。その第一弾が、この「へたれ藤吉郎」です。ホントは小心、臆病者が、そのコンプレックスを最大の武器に、天下人へとのしあがって行くドタバタ・コメディ劇です。かなり荒唐無稽な時代小説といえども、ちょっとエッチなコメディストーリーは、なかなかありません。この小説は、その隙間を狙ったニッチ小説ともいえます。カクヨム様ご愛読者の皆様に、ご笑読いただければ、こんなに幸せなことはありません。筆者の海石榴本人も、史料を読みこなさないと書けない長年の歴史小説から離れて、書くことを楽しんでみたいと思っています。よろしくお願いします。
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