人間は壊せる。でも、初恋だけは壊せない。
国を滅ぼし、討伐隊を返り討ちにし、人間を玩具のように壊してきた最強の人外、ヴェル。
人の命に価値を感じたことはない。悲鳴も命乞いも、彼にとっては暇つぶしの一つだった。
そんなヴェルが、ある日ひとりの人間の女性と出会う。
砦を壊した余波で昼食のパンを潰された彼女、紬が最初に言ったのは、
「私の昼ごはんだったんだけど。弁償して」
だった。
誰もが恐れる災厄を前にしても、紬は普通に怒る。
勝手に触れば手を叩き、人を殺せば叱り、盗もうとすれば止める。
ヴェルは最初、それが面白いだけだと思っていた。
けれど、紬に「最悪」と言われるとなぜか傷つく。
「ありがとう」と言われれば嬉しい。
他の男に笑いかければ、理由も分からないまま殺したくなる。
そして何より、今までどんな人間にも抱かなかった感情が生まれる。
紬だけは、壊したくない。
人間を何人殺しても何も感じなかった怪物が、生まれて初めてひとりの人間を大切にしたいと思い始める。
しかしヴェルは、恋も、嫉妬も、優しさも知らない。
知っているのは、邪魔なものは壊せばいいということだけ。
「好きな相手は、自分の思い通りにするものじゃない」
紬にそう教えられ、最強の災厄は少しずつ「好き」という感情を覚えていく。
人類には無慈悲。
好きな女の子には異常に弱い。
倫理観ゼロ、戦闘力最強、恋愛経験ゼロの人外が、初恋だけに翻弄されるダークラブコメディです。