明治22年、名古屋。
熱気と興奮に沸く博覧会の片隅で、青年・綾部民次郎は「それ」と出会った。
厚く布で巻かれた、長い木箱の中に鎮座する、一体の“人魚のミイラ”。世間に溢れる猿と魚を縫い合わせた粗悪な偽物とは明らかに違う、見る者を蛇のように縛りつける「異様な生気」。そして、驚くべきことに、その造形には一切の“継ぎ目”が存在しなかった。箱に記されていたのは、「星野屋 天部巧」という名。
恩師・永瀬の「怪物的な魂に呑み込まれるな」という不穏な警告を振り切り、綾部は取り憑かれたようにその名跡を追い始める――。