近況ノートで、登場人物を一人ずつ紹介していこうと思います。第一回は主人公から。
テオドール・フォン・ファルケンハイン。二十一歳。 自由都市アードラズベルクの守備軍、アードラスヴェーアの若き部隊指揮官です。
・年齢/二十一歳
・所属/アードラスヴェーア
・家/ファルケンハイン商会。父ヴィルヘルムは市長、兄レオンハルトは商会の総裁 ・剣/リュミナス=シェルヴァ
・体格/一八〇センチ。肩幅が異様に広い
・髪と瞳/金褐色の短髪、光の加減で琥珀にも見えるヘーゼルの瞳
祖父は「英雄伯」と呼ばれた男。父は剣で名を成し、兄は数字で街を回している。 その家に生まれた次男が、剣も帳簿も一通りこなせて、しかし本人に言わせれば取り柄は「約束を守ること」しかない。そういう青年です。
第1話から、彼を一番よく表している二か所を引きます。
まず、副官との最初の会話。
「行くぞ、ライネル」 「ああ」
二人の関係について、地の文では何も説明していません。この二行で足りると思ったからです。
もう一つ。燃え落ちたあとの村で、彼が漏らす一行。
「また、間に合わなかった」
「また」の一語だけ、どうしても外せませんでした。彼がこれまで何度同じ目に遭ってきたか、そのぜんぶがここに入っています。
執筆の裏話をひとつ
書いている途中で、彼の一人称を全部書き換えたことがあります。
最初は「僕」で書いていました。柔らかくて、二十一歳らしくて、悪くないと思っていたんです。 ところが軍務の場で部下に命令させてみると、どうにも据わりが悪い。この男が「僕が行く」と言った瞬間、部隊が彼を信用しなくなる感じがしました。
それで、公の場では「私」、気の置けない相手には「俺」に統一し、既に書き上がっていた分まで遡って直しました。地味な作業でしたが、直したあとの原稿のほうが、彼は明らかに指揮官の顔をしています。
もうひとつ。ファルケンハイン(Falkenhein)という家名は、この世界のエルヴェ語で「鷹」と「石壁」を合わせた言葉です。鷹の壁。 祖父オトマーに贈られた銘が「最後の壁」であることと、まったく無関係というわけでもありません。
ちなみにこの第1話、抜き放たれた剣が月光を受けて輝く場面のすぐあとに、地の文が「実際にはただの月光の反射だが、雰囲気は大事である」と茶々を入れています。そういう調子の語り手です。ただし、焼かれた村の側にだけは絶対に茶々を入れない、というのは決めています。
次回は、上の引用で「ああ」しか言っていない男、副官のライネル・ベリクを紹介します。