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チラ見せ!短編 「透花さんのスケッチブック」(「サマー・レガート」より)

 サポ限書くとリワード抽選!?と聞いて、案の定書いた雪村です。カクヨムさんの掌で踊っております。


 サポーター限定短編のチラ見せバージョンです。『サポ限気になるけど、どんなことしてるの?』という方向け。
 私のサポ限ページでは、主に今後の活動報告や、タイトルロゴ無しのイラスト(ウォーターマークとサインはアリ)を気まぐれ頻度で掲載しています。今回は初めて書きおろしの短編を掲載します。約5000文字です。もし興味ございましたらよろしくお願いいたします!

「サマー・レガート」ネタバレ要素が有ります。未読の方はご注意ください。
 サマー・レガート:https://kakuyomu.jp/works/16818093089149961960



「透花さんのスケッチブック」――私立神木ヶ原学園・高等部三年・篠崎七海視点――

 明日からの夏休みを歓迎するように、空は青く蝉は賑やかに鳴く。しかし、私の心は真逆でずっしりと重い。なぜなら、私は今日、美術部を引退する。それに伴って、この高校の美術部は長い歴史に幕を降ろすから……。

 元々三年生3人だけで回していた部活だ。一・二年生の入部希望者がいなかった時点で、結末は分かっていた。
 生徒数の減少に、それに追い打ちをかける今流行りの生成AI。そっちに人が流れてしまった。しかも、私達のように生成AIを使わない者は『時代遅れの変人』と白い目で見られる。だから今後も入部希望者は望めない。はぁ……世知辛い。

 世の中に文句を言っても、廃部の事実は変わらない。

 私は終業式の後、私物を回収するために美術室に来ていた。美術室は一角をパーテーションで仕切られ、その奥に美術部員が使うロッカーが並んでいる。他の二名は名義のみの部員なので、持ち帰る荷物なんて無い。
 私はゆっくりとロッカーを開けると、三年間の活動を思い出すように、荷物を持ってきたトートバックに詰めて行く。

(少ない部員だったけど、先輩や先生に恵まれて楽しかったな……。他の部とコラボしたり、いい経験したなぁ……)

 私の三年間は、あっという間に鞄に収まってしまった。「ありがとうございました」と軽く頭を下げてロッカーの扉を閉めると、今度は一番右端のロッカーの前にしゃがみこむ。

(透花さんの荷物はどうしよう……?)

 私は目の前のロッカーを開けると、一冊のスケッチブックを取り出した。

 グリーンの表紙には『2-5 夏瀬 透花(なつせ とうか)』と名前が書かれ、油性マジックで可愛く落書きされていた。このスケッチブックを先輩から託され日を、昨日の事のように思い出せる。スケッチブックを優しく撫でてぽつりと零した。

「私も後輩に、このスケッチブックを託したかったな……現れないかな? 後輩」

 ――コンコンコン!
 
 (ノック? 誰だろう?)

 私はスケッチブックを抱えたまま教室の方へと向かう。扉が視野に入ると同時に引き戸がガラリと音を立てた。
 引き戸を開けたのは、見慣れない男子生徒だった。珍しい、中等部の生徒だ。子供っぽさが残るものの、やや長い色素の薄いブラウン髪に、整った顔。彼の佇まいや纏う空気は優しい。日焼けしてないラインの細い体はきっと文化系の部活だ。そんな邪推をしていた私に、彼は申し訳なさそうに尋ねた。

「勝手に入ってすみません。大丈夫でしたか?」
「はい、片づけてただけだから大丈夫です。先生ですか? 先生は新棟の職員室に……」
「いえ、ここに用事が有って来ました。初めまして、僕は神木 龍巳(かみき たつみ)といいます。神木ヶ原中の3年です」

 神木君はすっとお辞儀をした。艶やかな髪が、光を反射しながらサラサラと揺れる。美しいお辞儀に見とれてしまった私も、彼に倣い頭を下げた。

「どうも、私は篠崎 七海(しのざき ななみ)です。高3で、美術部部長です。神木って……まさか」
「ええ、この学校の理事の孫です。祖父がいつもお世話になっております」

 お世話になってる方は私の方だ。しかし何と礼儀正しい。 彼は中二病を発症するのだろうか? 想像できない。そんな彼に敬意を込めて、私も丁寧に尋ねる。

「美術室に何か御用ですか?」
「はい、美術部の見学に。僕に絵を教えてくれた先輩もここの美術部だったので」

 彼は朗らかな笑顔を見せた。美術部の見学と聞いて嬉しくて胸が高鳴りそうだったが、現実を思い出すと高まった気持ちは萎れた。この悲しい現実を彼にも告げなければならない。それも先輩の仕事だ。

「残念だけど、美術部は今日で廃部なんです。私が最後の美術部員で人間は誰もいなくなっちゃいました」

 うっかり、『人間は誰もいない』なんて余計な事を言った口を塞いだ。彼もその言葉と私の態度が気になったのか聞き返してくる。

「人間は?」

 彼の目は優しいけど、質問の答えを蛇のように狙っていた。正直に答えないとこの柔和な空気が壊れそうで怖かった。

「……この美術室には、幽霊が出るんです……」


☆続きはサポータ限定記事となります。もし興味ございましたらよろしくお願いいたします☆

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