おいらは床にうずくまり、左手首を抑えて呻いていた。
恐る恐るセーターの袖をまくり、ついさっき鴨居に強打した手首のあたりを窺う。
案の定。。。
打ち付けた部分はぽっこり膨れ、うっすらと青くなっている。痣、確定。
よりによって打ち付けたのは腕の弁慶というべき肉の薄い部分で、前腕の打ちどころとしては最も悪いと言っても過言ではない。
ああ、なんでかなあ。。。
数瞬前
会社でのニヤケ顔も夜道のスキップも我慢して帰宅したおいらは、部屋の電気をつけるや否や飛び跳ねた。
「うっひょーーーい!!!!!あばばばばッ!?」
高く上げた左手を鴨居に強打、痛みに悶絶して床に転がる。
転んだ姿は破廉恥にはならなかったものの、しばらく物も言えずに横たわる羽目になった。
なんでかなあ。
大体喜んで何かすると痛い目に合う、と相場が決まっている。
おちおち嬉しがれもしないんだろうか。まったくひでえ神様だぜ。
その時、天啓とも思えるひらめきが脳裏に去来した。
「これは...ガチャだ。今こそガチャを引くべき時だ。うん、それしかない」
まことしやかにささやかれる、幸福量保存の法則。
不幸が訪れたとき、ガチャを引けばその不幸を埋めるように幸福...ほしいキャラが時空に現れ出でるという都市伝説である。
先般、夜中の2時から打ち合わせが入ったMさんは、その直後に引いたガチャでメリッサをお迎えしたと聞く。
寝ころんだままポケットからスマホを取り出し光の速さでアナデンを立ち上げたおいらはすぐさま星の夢見館に飛んだ。
「ブリアー...なのだわ」
悲しみに暮れて画面を見つめるおいらの上に影が差す。
「なに、ぶつぶつ言ってるの...?」
見上げると、隣の部屋からでてきたTが恐ろしいものを見るようにおいらを見下ろしていた。
「ええええええええ!?い、いたんです...か?」
電気消えとったやん。廊下も洗面所もキッチンも。電気だけじゃなくて気配も消してたやん。わざとやん。絶対わざとやん。
言い募るおいらにTはこともなげに言った。
「電気もったいないから」
「え、あ、うん。てかいつからいた?ど、どこから聞いてた?」
「さあ、立ち上がって。てか、さっさと立て」
冷徹なるTに従って立ち上がるも、なおもおいらは食い下がる。
「どこから聞いてたんだって!?」
「なのだわ、も、もちろん聞こえてたよ」
「も...?も”っ!?!?」
おいらを無視してTはキッチンに向かい、冷凍庫から氷を取り出した。Tがウィスキーを飲むためだけに購入し、絶対誰にも触らせないやつだ。
リンゴジュースをのむのにおいらがこっそり拝借しているのは内緒である。
Tはジップロックに氷を入れると、それにタオルを巻いた。
「どっか打ったでしょ。冷やしたら」
や、優しい...って、うわあ。鴨居衝突から今まで、全部聞いてるやつやん。オワタわ。
受けとった即席氷嚢は、手の中できゅっと鳴った。その時、おいらは大切なことを思い出した。
「や、やめてくれ...!優しくしないで..!かの地を救済するまで..!」
「え、なにそれ」
怪訝そうに眉を顰めるTが氷嚢を取り返そうとするが、おいらはそれを左手首に押し付けた。
「不幸を貯めないと、ガチャが引けない」
例え本当に幸福量保存の法則があったって、手をぶつけたくらいで働くはずないのだ。
天井に届くほどおいらを飛び跳ねさせた幸福は、しばらくはどんな不幸でも、ペイできそうにないから。
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お読みいただいた皆さま、
お選びくださった皆さま、
アナデンに会わせてくれたすべての皆さま。
心より感謝申し上げます。
ありがとうございます。
中間選考だけど、めちゃんこ嬉しいから飛び跳ねちゃうぜ!いやっほーい!!!