「私の名前は夢亜巫(ゆあみ)です!
ちょっと色々事情があって転校してきました!
中学二年生で心配だけど、頑張ります!」
朝日で飽和した教室内に元気な声が響く。
頭のてっぺんで纏めた黒いお団子と黒いメッシュとベースとなっている黄色い髪が対になり、柔らかい雰囲気を醸し出した少女が教室の空気を変え始めた
「な、なんかすっごい元気だな…」
「でもなんかかわいくないか…?」
「じゃあ席は和百合(わゆり)さんの隣ねー」
纏めきれなかった少女の髪がわずかに揺れながら教室の後ろへ移動する。夢亜巫と名乗った少女は一番後ろに用意された椅子に座ると同時に、勢いよく右隣に首を向ける。
「名前和百合ちゃんって言うの!?すっごい可愛い名前だね!」
「…。」
聞こえていないのかと勘違いするほど返答はないが、息を呑むような漆黒の髪は印象的だ。夢亜巫は変わらず満面の笑みを向け続けている。
「すまないね、悪気はないんだよ、彼女。」
顔がいいとはこの人のためにある、と勘違いするような整った顔が和百合とは反対側に見える。朝日がスポットライトのようにカーテンの隙間から指し、輝きを増している。言葉に表情はあるが、肝心の表情はどこも動いていない。メガネから除く紫の瞳はどこか沈んでいる。
昼休み。チャイムが騒がしい学校内を掻き分けて鳴っている。部活の話や好きなアイドルの話など、廊下では学業にかすりもしない話が繰り広げられ、あちらこちらにたむろしている人も見て取れる。夢亜巫は人の合間を縫うように、真っ直ぐどこかへ向かっていた。
「どうしよう…購買ってどこだっけ…?」
購買とは反対側の方向に向かっている事も知らず、校舎裏に真っ直ぐ向かう。
校舎の陰には、ちょうど見覚えのある漆黒の髪が。
「あ!ちょうど良かった、和百合ちゃ…」
その声が途切れたのは、目の前の少女が消えた他なかった。