最近、異世界ファンタジー作品をいろいろ読んでいたら、「自分も書いてみたい!」となってしまい、新作を書くことにしました!
ということで、まだ書き始めたばかりですが、近況ノートで一足先に第一話を公開します!
よかったら読んでみてください!
それでは、どうぞよろしくお願いします!
ワシの人生は、端的に言ってしまえば「逃げ切り」の大成功だったと言えるだろう。
若い頃に気まぐれで買った宝くじが豪快に当選し、それを元手に手堅く投資を回した結果、一生遊んで暮らせるだけの莫大な資産を築いてしまった。「働いたら負け」――本気でそう信じていたワシは、見事に一度も就職することなく、悠々自適な生活を謳歌し続けた。
年齢、八十歳。彼女いない歴イコール年齢にして、正真正銘の童貞。
根っからのゲーム好きで、アニメや漫画を愛し、齢八十にして未だに「自分には隠された力がある」と信じて疑わない、筋金入りの厨二病患者でもあった。
そんなワシの死因は、実に呆気ないものだった。
八十歳になっても欠かさず続けていた日課の瞑想や素振り、筋トレ(※いつ異世界に呼ばれてもいいように)を、寒い日にも無理して続けていたのが祟ったのか、ある日あっさりと風邪を引いてしまったのだ。寄る年波には勝てず、ただの風邪はあっという間に悪化し、ワシはベッドから起き上がれなくなった。
幸いなことに、家族仲だけは昔から良好だった。
息を引き取る間際、兄姉や、その子供である甥っ子や姪っ子、さらにその子供たちまでがベッドの周りに集まり、ポロポロと涙を流してワシの手を握ってくれた。
結局、この世界で魔法が使えるようにも、剣技が覚醒することもなかった。生涯をかけた素振りは空振りに終わったが、自分の好き勝手な人生に後悔はなかった。
ただ……涙を流して見送ってくれる彼らの温もりに触れた時、ほんの少しだけ胸の奥がチクリと痛んだのだ。
『ワシも、こんなふうに愛し愛される、温かい自分の家庭を築けばよかったな……』
そんな遅すぎる後悔を抱えながら、ワシの意識はゆっくりと、しかし確実に遠のいていった。
――はずだった。
死んだと思ったのに、なぜか意識がはっきりとしている。
気がつけば、ワシは果てしなく続く真っ白で何もない空間にぽつんと立っていた。
「おや、来たようじゃな」
「ああ、待ちくたびれたぜ」
ふと声がした方を見ると、そこには見知らぬ二人の老人が立っていた。ワシと同じように死んだ、どこかのじいさんたちだろう。すっかり気が緩んだワシは、「お互い、死んじまいましたなあ」と気楽に声をかけようとした。
しかし、老人は顔を見合わせ、苦笑いするように肩をすくめた。
「この人間なら、この状況を見ればすぐに察すると思ったのじゃが……そうでもなかったな」
その言葉の真意を頭の中で反芻し……ワシの背筋に、ゾクリと電流が走った。
真っ白な空間。現れた謎の老人。自分の死後の謎の意識。
長年のオタクとしての勘が、一つの圧倒的な答えを弾き出す。ワシはガタガタと震え出し、恐る恐る口を開いた。
「も、もしかして……神様、ですか?」
二人の老人は「やっと気づいたか」と言わんばかりに楽しそうに笑い、深く頷いた。
ワシは即座に、一切の躊躇なく、見事な土下座をキメた。
「そうじゃ。ワシが創造神のルミナエルじゃ」
「俺が破壊神のゾルディックだ」
名乗った二柱の神の威圧感に、ワシは床に額を擦りつけたまま冷や汗を流した。
「まぁよいよい、面を上げい」
ルミナエル様が鷹揚に頷き、ゾルディック様がニヤニヤと笑いながら問いかけてくる。
「ここに呼ばれた理由はわかるか?」
伊達に八十年、オタクと厨二病をこじらせて生きてきたわけではない。このシチュエーション、このお約束。ワシは震える顔を上げ、目を輝かせながら、ありったけの期待を込めて尋ねた。
「も、もしかして……異世界転生、ですか……っ!?」
「その通りじゃ」
ルミナエル様が、好々爺のように優しく微笑んだ。
「今の世界で、純潔を八十年も貫き通す奴は珍しい。何より、最期に願った『自分も幸せな家庭を築きたい』という純粋な思いが、ワシはとても気に入ってな」
「それにしても、お前さんよォ……」
ゾルディック様が吹き出しそうになるのを必死に堪えながら、ワシを指さした。
「十歳の頃から死ぬ直前まで、七十年近くも『魔法が使いたい』だの『真の力が覚醒する時が来た』だの、毎晩毎晩熱心に祈られてはな……流石の俺たちも、根負けして願いを叶えてやりたくなるってもんだぜ」
「…………っ!!」
神様たちの温かくも容赦のない言葉のナイフに、ワシは顔から火が出るほど恥ずかしくなり、再び深く深く、床にめり込む勢いで額を擦りつけるしかなかった。
恥ずかしさで今すぐこの白い空間ごと消滅してしまいたい気分だったが……それ以上に、七十年近く祈り続けた願いが、ついに神様に届いたという事実が嬉しくてたまらなかったのだ。
そんなワシを見下ろしながら、ルミナエル様が優しく口を開く。
「それで転生先なのだが……おぬしの大好きな、剣と魔法のファンタジー世界じゃよ」
「おう! 魔物も山ほどいる、やりがいのある世界だぞ!」
ゾルディック様もニカッと笑って付け加えてくれた。
剣と魔法! そして魔物!
つい先ほどまでは、結婚できなかったことをあれほど後悔していたというのに、今となっては「むしろ死んでよかった!!」と華麗に手のひらを返し、心の中でガッツポーズを決めてしまった。
しかし、ここで一つの疑問が頭をよぎる。長年培った知識が、絶え間なく警鐘を鳴らすのだ。
「あ、あの……魔王討伐とか、世界を救うとか……そ、その、何か重大な使命とかがあるんでしょうか……?」
おそるおそる尋ねるワシに、ルミナエル様とゾルディック様は顔を見合わせ、あっさりと首を振った。
「いや? そんなものはないぞ」
「おう。お前さんへのボーナスみたいなもんだ。自由に生きてくれ」
なんという神対応! いや神なんだけども!
使命なし、自由気ままなファンタジーライフ確定!
あまりの喜びに天まで舞い上がりそうになったワシは、「異世界転生と言えば、アレしかない!」と思い至り、床に這いつくばったまま、ルミナエル様とゾルディック様を上目遣いでチラチラと見つめた。
チート能力。どうか、ワシにチート能力をください……っ!
声には出さず、無言の熱い念を込めて見つめ続ける。
すると、ゾルディック様が心底嫌そうな、汚物を見るかのような顔をした。
「おい……八十歳のじいさんの上目遣いチラ見なんて、誰も嬉しくねぇんだが」
「うむ……。少しばかり、絵面がキツイのう……」
「……ッ!!」
神々のド直球な正論に、ワシは「確かにおっしゃる通りだ!」と激しく納得してしまった。それと同時に、己の図々しさと客観的な気持ち悪さが猛烈に恥ずかしくなり、ずーんと深く落ち込んでしまった。
そんなワシの小さく丸まった背中を見て哀れに思ったのか、ルミナエル様とゾルディック様がわざとらしく「「コホン」」と咳払いをした。
ハッとしてすぐに姿勢を正す(土下座のまま)ワシに、二柱の神はにこやかに告げた。
「おぬしには、ワシから『鑑定』の能力を授けよう」
「俺からは『アイテムボックス』の能力をくれてやるよ」
「おおおお……っ! 創造神様! 破壊神様! ありがとうございます!!」
王道中の王道、しかし異世界生活においては絶対に腐らない最強の便利スキル二点セット! ワシは感極まって涙を流しながら、何度も何度も神々に感謝の言葉を述べた。
「よいよい」
満足げに頷く二柱は、最後に転生先の詳しい情報を教えてくれた。
これからワシが向かう星の名は『ゼフィリア』。そして、生まれ変わる先は『オルティジア王国』という国の、辺境を治める男爵家の三男坊だという。
貴族の三男坊という、これまた完璧すぎるお約束ポジションに、ワシのテンションは限界突破で上がりっぱなしだった。
「あとは転生して、おぬしの望むままに楽しんでくれ」
ルミナエル様がそう言った途端、ワシの体が足元から淡い光の粒子となってフワフワと空へ溶けるように消え始めた。
いよいよだ。いよいよ、ワシの二度目の人生が始まるのだ。
今度こそ、温かい家庭を築くんだ。そして、剣と魔法の世界を全力で楽しんでやる!
視界が真っ白に染まり、意識が急速に遠のいていくその瞬間――。
『ふぉっふぉっふぉ……転生したら、まず己を鑑定するんじゃぞ』
『おう、絶対に鑑定しろよな! 傑作だからよ! ひゃっはっは!』
ルミナエル様とゾルディック様の、どこか企むような、やけに楽しそうな笑い声が耳に届き……。
それが一体何を意味するのか考える間もなく、ワシの意識は完全に途切れたのだった。