少々思うところがあり、『非公許遊郭かくし閭 巻の壱《制外者》』のタイトルを変更いたしました。
新タイトルは『制外者 —にんがいもの― 巻の壱～燃えてなお尽きぬ想い』です。
本来はこちらにしようと思っていたので、元に戻ったな、というのが正直なところ。
本作は「小説家になろう」さんでも公開しているのですが、あちらでは有難いことにブックマークをつけてくださる読者様がいらっしゃるのでタイトル変更はいたしません。
ですが幸いなことに？カクヨムさんでは小説のフォローがゼロということで、思い切って変更した次第です。
タイトル変更に至った一番の理由は、旧タイトルでは内容が誤解されやすいかな、というところにあります。
本作は旧タイトルにもあるように遊郭を舞台としていますが、遊郭内のすったもんだや遊女をメインに描いているわけではありません。
本当に書きたかったこと、それは「制外者（にんがいもの）」と呼ばれ社会の外に置かれた人間、つまり「差別」される側の姿です。そこに「差別をなくそう」とかそんな高尚なイデオロギーはまったくなく、綺麗事抜きで、ただ幕府滅亡後の明治社会を社会的弱者の彼らがたくましく乗り越えていく姿を描きたかっただけなのです。
以下長くなるので、お時間があればお付き合いくださいませ。
本作を執筆するきっかけとなったのは、『弾左衛門と車善七 江戸のエタ頭と非人頭』という塩見鮮一郎氏の著書でした。
なぜこちらを拝読して本作を書こうという気になったのか。それを説明する前に触れておかなければならないことがあります。
それは社会人１年目のことです。配属先は人事部。新入社員の自分はとあるシンポジウムに出席するよう命じられました。そのシンポジウムの内容は「同和問題」について。会場には各企業の人事担当者が大勢集まっていました。
内容は非常にデリケートかつセンシティブであり、とてもここで誤解なく説明しきれる自信はないので割愛します。
さて、このシンポジウムの目的は、人事担当者が面接に来た人や社員に対して不適切な質問（主にプライベートのこと）をしないよう、「同和問題をきちんと把握しておいてくださいね」ということ。
当時の自分は社会に出たばかりのど新人。本当に無知で、「同和？ なにそれ？ 寝た子を起こすなよ」としか思いませんでした。知らなければ差別のしようもありませんから。
しかし、シンポジウムで識者が言いたかったことはまったく逆で、「歴史的事実を正確に知った上で差別をしないことが、本当の意味で差別のない社会を作ることになる」というものでした。
お断りしておきますが、これは当事者間でも温度差があるようなのでこちらが勝手に判じることはいたしません。そういう考え方もあるんだな、と思ったまでです。
是非はさておき、あのシンポジウムのお陰で少しでも被差別民の歴史的背景を知ることができました。しかし、知った気になっていただけだということを、塩見氏の著書を拝読して思い知らされたのです。
自分は何もわかっていなかった。今の自分の生活は、彼らの長い犠牲の歴史の上に成り立っているのだということを。
今自分が身を置いているエンタメの世界がまさにそう。
今でも詳細を把握しているわけではありません。エタ・非人の歴史は非常に古く、奥の深いものであります。有史以来存在し続けた彼らの歴史をひもとくのは一朝一夕にできることではありません。
ですが、アウトプットすることによりインプット力をさらに強めることができると考え、また、ちょうど恋愛ものを書きたいと思っていたこともあり、本作を書き始めたというわけです。
ただし、テーマが重いので、物語自体は重くならないようラブコメ要素も含めながら軽くしました。文体とか登場人物同士の掛け合いとか。主要人物たちがべらんめぇ口調（川越発祥説あり）なので比較的書きやすくはありましたね。
最後に、これはあまり公表したくないのですが、プロットは明治６年まで出来上がっています。今はまだ明治２年までしか執筆していませんが、明治４年の部落解放令と明治５年の芸娼妓解放令、最低でもここまでは何年かかっても書き上げたい。たとえpvゼロでも書きつづけます。
長々と綴ってしまいましたが、そんなわけで『制外者 —にんがいもの― 巻の壱～燃えてなお尽きぬ想い』をご覧いただけたら幸いです。
政治的時代的背景等、読みづらい部分は飛ばしてくださってもかまいませんので、勇次さんとりんちゃんの恋の行方を見守ってやってくださいませ。
うん、やっぱりこれがなきゃ面白くないもの。
『制外者 —にんがいもの― 巻の壱～燃えてなお尽きぬ想い』
https://kakuyomu.jp/works/16818093092272361724