新作の連載を始めました。『訳出の必要なし』といいます。
文字を持たない言語が話される太平洋の小島に、資源開発会社の翻訳者として送り込まれる言語学者の話です。
渡されるのは、二十二年通って先に死んだ前任者が残した、作りかけの辞書だけ。使えば使うほど、島の人たちとの話が噛み合わなくなっていきます。
きっかけは、ガヴァガイ問題でした。
未知の言語を話す人が兎を指して「ガヴァガイ」と言ったとき、それが兎を指すのか、兎の耳を指すのか、それとも兎が飛び跳ねている様子を指すのか、原理的には決められない、というクワインの話です。
じゃあ実際に翻訳を任された人はどうするんだろう、と考えているうちに、前任者の残した辞書が信用できなかったらどうなるか、という方向に転がりました。
事件は起きません。誰も襲われません。解くのは全部、紙の上です。残された辞書と、社内文書と、二十二年分の議事録。
そういう話が好きな方には、たぶん刺さると思います。
全三十三話、最後まで書き上がっています。毎日更新の予定です。
『純正品』を読んでくださった方にも、また読んでいただけたら嬉しいです。