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 相羽です。

 本日は、24日(土)公開予定の小説『非幸福者同盟』第236節から一場面を先行で「近況ノート」に載せてみます。


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 故国は日本。その列島の北の方に位置する「S市」に帰ってきたのだ。しばしの間休息して、ヴァルケニオンから受けた傷を癒すのが目的だった。当初は父母にも顔を見せるつもりでいたのだが。

「僕はダメな人間なんだ。勝手に出ていって。何を成したわけでもないしね」
「だったら、何でわざわざここに? 本当は、会いたいんでしょ」

 親和はぼーっと窓の外のS市の風景に視線を落とした。変わったことと、変わらないことがある。

 街は活気に溢れていた。何でも、秋には東京でオリンピックが開かれるらしい。戦後の混乱期の無秩序な躍動とはまた違って、一つの方向に向かって、一人一人の国民が一度壊れたものをもう一度作り直そうと頑張っている。「進展」。その一方向に向かって誰もが、これから豊かになるのだということを夢見ているのだ。

(それでも、全員が勝者になるわけでもないさ)

 市電がS市の一級河川にかかる橋の上に入ってゆく。まばらに自動車が走っている。街の鼓動に呼吸を合わせるように、ガタン、ゴトンと、市電の駆動音が独特のリズムを取っている。橋には、欄干に沿って一定間隔で街灯が立っている。いよいよ、見慣れた風景になってきた。

「新和君~」
「いかん。また、シニカルなことを考えてしまっていた」
「この街。懐かしい、気がする」
「日本に来たのは、初めてだろう?」
「そうなんだけど。なんだろう。ホっとする感じ」

 やがて市電が駅に着いたので、新和とアンナは降車し、しばらく商店街を歩いて行く。

 電気店の店頭に白黒テレビが置いてあり、街の人たちが集まっていたのが印象的だった。まだテレビは高級品で一般家庭には普及しておらず、電話はあっても、間に交換手を挟まないと繋がらないという頃である。場に生きている他人の血潮、汗、匂い、そういったものが自分とどこか未分化で、時間はゆっくりと流れている。

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 僕もそうなんですが、クリスマスの頃って、幸せな人と同じくらい死にたくなる人も多いので、とりあえず今の自分なりに生きようよ、みたいな話を毎年アップしております。

 一番最初のは、「夢守教会 少女のケニング」で検索してみて下さい~。