掲載タイミングを逃したので、ここに供養で載せておきます。
28話の後に入れる予定の話でした。
本編完結などして落ち着いたら挿入します。
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間章「The Green Kid Dives into Red」
見える未来は、つまらない。
アート星は、物の加工に魂をかけた職人たちが揃っている。
製品の質は他のどの星よりも高く、発想は誰よりも独創的。
技術者たちの憧れとして、不動の地位を築いている。
そう、不動の地位。
本当にそんなところから、世界をひっくり返すような何かが産み出せるのかいつも疑問だった。
加工場のボスは、支配を嫌う。
たまに来るウェスとかいう偉そうなガキと張り合って、俺達職人の自立を守っている。
だが、その保護膜のなかで生かされている以上、どんなに取り繕ってもそれは支配だ。
旅に出たい。
知らないところに行きたい。
なにもかも、変わり続けるところにいたい。
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「おい、リャン」
「はい、どうしました? ボス」
「お前は発想と製作スピードこそ図抜けてるが、製品の耐久性が低い。それが全力ならとうに追い出してるが、お前はそうじゃないからたちが悪い」
「そうですか? ボスやみんなの製品が異常なんですよ。それに、ちゃんと俺は耐用年数を明示してますよ? どのみち、製品は型落ちするものです。次を売るために、適度な寿命で交換してもらうための知恵ですよ」
「……利益が出ているのは認めるがな。職人としてのプライドが、もう少しあってもいいだろう」
ふん。
お前、やっぱり自分が気持ち良くなりたいだけだろ。
俺のプライドは、製品を売りさばくことにある。
使ってもらえない工芸品なんて、ただの自己満足だ。
イライラしたときは、よくスクラップ場へ行く。
施しをやるためではない。
失敗作を、そいつらに使ってもらうためだ。
そのなかでも、最近お気に入りの子供がいた。
「やぁ、フィルちゃん」
「あ。こ、こんにちは」
俺が笑うと、彼女は照れる。
まるで遊技場の接待用電子人格のようにわかりやすいやつだ。
「その、いつもありがとう。リャンさんが前にくれた送風器、うちの弟がすごく喜んでます」
「気にしないでよ。うちの連中が贅沢だから、失格品を流してやってるだけさ。基準には届いてない製品だから、あんまり信用しすぎないこと」
「それでも、一生大事にする。リャンさんがくれたものだもん」
安心する。
自分の作品を慕う人間を見ると、安心する。
「今日は、電波受信機ってものを持ってきたんだ。遠い星の電磁波を、即座転移スポットを通して仮想受信してくれる。どのチャンネルがどの星のものかわからないから、ほとんど遊び道具だけどね」
「すごい。これ、別の星のお話が聞けるの?」
「ああ。最近、気に入っているのはこのチャンネルだよ」
ツマミをいじると、歌声が流れる。
切なくて、苦しくて、なぜだか元気になれる歌。
「きれいな声……」
「このチャンネルは、ずーっとこの人の歌を流してる。よっぽど有名な歌手なんだろうな」
「うん。きっと、お姫様みたいにかわいいよね」
フィルは、大きな頭をもたげてつぶやく。
「私も、なれるかな」
「この人の顔なんてわからないから、フィルちゃんの方が美人かもしれないよ」
適当に言った言葉で、単純なフィルを喜ばせる。
退屈だ。
この歌も、あわれな娘の恋心も、何やら自己完結している加工場の奴らも。
全部、一度ブッ壊してみたい。
***
「ねぇ、リャンさん! 大ニュース!」
フィルが珍しく、ペタペタと走りよってきた。
ぼろぼろの古い紙を、片手に持っている。
「スクラップ場で見つけたの。ねえ、あの歌を歌ってるの、この人じゃない? 炎の歌姫さんだって。カッコいいなあ」
その紙は汚れて読みにくかったが、『同盟星であるノーブル星貴族・人見虎一の屋敷が✕✕。その手口から、またもや炎の歌姫・祝野穂果(いわいのほのか)の組織による✕動か? 虎一には✕✕の噂が絶えず、正義の行いとして支持する声も』と書かれた部分ははっきり残っていた。
うちの変態技術者ならではの耐久性だ。
ノーブル星のクーデターなど、もう10年近く前の話。ボスが元々そこに住んでいて、逃げだしたと聞いている。
写真も、ぼろぼろだが顔はなんとか残っていた。
可憐で、したたかで、長髪を悲劇のヒロインのように揺らす──
そして、今にも壊れそうな姿。
解像度の粗いその写真は、俺の中の何かをひっくり返した。
***
「ボス。俺、紙狂いちゃんたちについて行こうと思うんです」
「……そうか。止めねえよ。お前にはこの星は狭かっただろうからな」
「期待を裏切ってしまい、すみません」
「ふん。お前には、うちの娘と結婚してほしかったもんだがな」
俺にはわかっている。
なんだかんだ言って、ボスは俺を認めていたこと。
できることなら後継者にって思ってくれていたこと。
でも、俺はそんな未来など要らない。
壊れるまで、ぼろぼろになって生きてみたい。
「ボスには悪いんですけど、ウェスのお手付きというのは……。ほとんど会ったこともないですし」
「冗談だよ。愛が重い星で生きてるようなやつだ。たぶん、あいつも戻ってこないんだろうな」
同情は敵だ。
ボスの感傷は、俺の人生を左右しない。
***
紙狂いちゃんに恋する男を演じるのは、とても楽だった。
だって、あの歌姫と背格好が良く似ていたから。
「あはは、君はとても面白いねじれ方をしてるねぇ。何? 既婚者の尻追いかけて移住とか、精神的被虐体質なの? 根っからの奴隷根性とも言えるかなぁ」
「お前にねじれがどうとか言われたくねえよ。クソガキ」
「心外だなあ。僕って君とそんなに歳は離れてないけど? で、何?」
「確認がしたくて。スクラップ場のフィルは、一緒について来るのか?」
「そうみたいだけど? なんで僕に聞くかなあ」
「お前が一時期、フィルの俺への好意をいじって遊んでたからだ」
「あー。忘れてたよ、悪い悪い。そうそう、ハカセの嫁を奪いたいならヒントをあげるよ。前に、僕はあの子に惚れ薬を渡してる。フィルがハカセに使うのも面白いんだけど、君なら奪うことも簡単だろう。単純に、住民の好感度をあげることに使ってもいいけどね」
「……お前、何がしたいんだよ」
「嫌がらせ。そんなんで壊れちゃう愛情を見て、ハカセにやーいやーいって言ってみたくてさ。……ハカセにはレディがいるってのに、ちょっと欲張りだよねぇ。うちの娘をもっと大事にしてほしいもんだよ。ついでに、僕のこともかな」
コイツは、俺なんかよりも狂っている。
友達を奪われたくない。友達の愛情を信じたい。
面倒なやつだ。
全部、壊れちまえば同じなのに。
「梁 緑望(りゃん りゅわん)。破滅へ向かう君を見てると、やっぱり人間はおろかだなって思えるよ。それでは、心行くまで星の旅を」
嘲笑うこの狂人は、どこまでわかっているのだろう。
電波受信機からは、あの歌が聞こえる。
俺を一番ワクワクさせる、不安定な炎を抱え。
俺の作品を求める新天地へ、最後の旅に出た。