夕暮れも近い弓道場に袴姿の少女はひとり立つ。浅く鼻から息を吐くとゆっくり足を開き「足踏(あしふ)み」の正しい姿勢を作る。左膝に弓を置き右手を腰にとる「胴造(どうづく)り」に移すと強く唇を引き結ぶ表情で右手を弦にかけ、左手の内を整え「弓構(ゆがま)え」に的を真っ直ぐ見据える。静かに両拳を同じ高さに持ち上げ「打起(うちお)こし」弓を左右均等に「引分(ひきわ)け」心身をひとつとし「会(かい)」と構え、研ぎ澄まされた刀のような切れ長な瞳が斬(ざん)と切り広がるように大きく見開かれ、二十八メートル先にある安土に掛けられた的を見つめ射抜きの時が熟成する時を静かに待った。
(……ッ!)
「離れ」の時はくる。少女は胸郭を広く開き、強く見据えた的へと矢を放った。
タンッ――と的を射抜いた矢は、彼女の理想よりも多少、ズレた位置に中(あ)たる。少女は鼻で静かに息を吐き「残心(ざんしん)」に射の姿勢をしばらくと保ちながら見開いた目を刀が鞘に納まるように切れ長に戻し、ゆっくりと閉じた。