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落書き ボツ


暗闇のなか、二つの赤く輝く光はその不気味さを僕の心に刻みつけるには十分だった。が、それと同時に、惹きつける美しい紅玉石《ルビー》のようにも感じられ、その場から逃げ出したいという思いよりも見つめ続けていたいという欲望の蔓が僕の足に絡みつき離れない。そして、その赤い光はいつの間にか目の前で僕を《《見つめていた》》。それが、その赤い輝きが眼だと理解するのに数秒と時を刻む。
(そんな、赤い瞳の人間なぞこの世にいるわけは……)
だが、事実として目の前に いるのだ。黒い扇情的なドレスを着た女が顔を近づけ見つめているのだ。これは明らかに人間……いや、人間と言えるのか? その肌は生気なぞ無いと思うほどに真っ白な雪のような冷たさ。髪も絹糸のように白く綺麗でまるで作り物の人形のようだ。だが、その眼は、この赤い瞳にだけは燃えがる炎のような生気があった。やがて、真っ白な細指が僕の乾いた唇に触れると、鈍い痛みを覚えた。細指は赤く染まっている。その爪が僕の唇を傷つけ血を吸ったと気づいた瞬間に、僕は夢から醒めたように床に尻をついて女を見上げていた。女は、細指に吸わせた爪を見つめ青白い唇から儚げな吐息を洩らしていた。

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