『ヘッドフォンをして ひとごみの中に隠れると
もう 自分は消えてしまったんじゃないかと思うの
宇多田ヒカル:For You』
東京は匿名の街だ。自分の生活圏内に、ほとんど知ってる人間しかいない田舎で育った僕からすると、知らない人の方が多い東京という匿名のブラックボックスには、圧倒される。渋谷や新宿、池袋の人混みのなかで、イヤホンをして音楽を聴いていると、いよいよ自己の輪郭が薄れ、都市や集団そのものになったかのような乖離を覚える。
都市ほど感情豊かな場所を僕は知らない。海や山のような自然を体感すること、神社仏閣を訪れることにも何か形容し難い情緒は感じるが、そういう場所に感じるのは、人間の感情というよりも雄大でスピリチュアルで神秘的なもので、一個人が同一化するには遥か及ばない、聖域のような感覚だ。
一方、都市は人間的な感情で溢れている。いや、溢れかえっている。東京は表情を隠さない。渋谷や池袋の刹那的なトレンド消費、銀座や日本橋のような街自体のブランディング、秋葉原や中野のようなカルチャー・キメラ・シティに、強欲の化身、新宿。そういった個人の欲望が具現化されたような街でひとり、歩いていると、その街の表情と匿名性の荒波のなかに流されるような、安心感がある。僕はこれを都市的プラトー体験と呼んでいる。そういう東京の魔力を、僕の作品では表現していきたい。