旋律のサウスポー
## 物語の概要
女子プロソフトボールを舞台にした、ひとりの左投げ投手の成長物語。
主人公は宮原紬。速球で押すタイプではない。彼女の武器は、揺れて落ちて、打者の目の前で消えるように変化するナックルボール。狙って投げても、次の一球がどこへ行くのか本人にもわからない。制御しきれない球種を、それでも手放さずに抱え続けた少女が、プロの舞台へと登っていく。
ナックルは、ほんのわずかな指先の感覚で表情を変える。追い風、湿った空気、手のひらの汗。同じ握りでも、同じようには落ちてくれない。まるで気まぐれな旋律のように。その一球ごとの揺らぎに耳を澄ませながら、紬は自分だけのピッチングを探していく。
不器用で、口下手で、でも感情はまっすぐ。マウンドの上でも、ベンチでも、彼女はいつも心のなかで自分に話しかけている。その声が少しずつ言葉になり、チームメイトに届き、やがて球場の空気を動かしていく。
これは勝ち負けだけの物語ではない。ひとりの投手が、制御できない球と、制御できない自分の心に向き合いながら、それでもマウンドに立ち続ける。その軌跡を追う、ソフトボールの物語。
## あらすじ
その球は、打てない。だが、捕れもしない。
左手から放たれる一球は、打者の目の前でふらりと沈む。狙って投げているはずなのに、次にどこへ落ちるのか、宮原紬自身にもわからない。速さで勝負できない彼女が、たったひとつ手にした武器。それがナックルボールだった。
「うちの球は、うちにも読めん」
言葉にすればただの欠点だ。それでも紬は、その気まぐれな球を捨てられなかった。揺れて、落ちて、消える。まるで一球ごとに違う旋律を奏でるみたいに。
プロの門を叩いた彼女を待っていたのは、実力も個性もばらばらな仲間たち、癖のある監督、そして自分よりずっと速く強い打者たちだった。通用するのか。それとも、ここまでなのか。心のなかで何度も問いかけながら、紬はマウンドに上がる。
指先ひとつで表情を変える球を、彼女は制御できるのか。
そして、揺れているのは球なのか、それとも自分の心なのか。
一球ごとに揺らめく、不器用な左腕の旋律が、いま鳴りはじめる。
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