とても心を動かされた話だったので、感想を書いておこうかと思います。
日本では1989年に単行本が出されており、海外でもとても有名なSF作品です。
このお話の主人公は、知的障害を持つチャーリイが主人公です。
彼は賢くなって周りの人達と同じような会話をして楽しみたかったので、知能を上げる為の脳の手術を受けます。
飛躍的に彼の知能は上がっていきますが、賢くなった為に、周りが自分に対して行っていた行為の意味も理解できるようになってしまうのです。
さらには一般の健常者よりもIQが上がっていってしまい…。
というあらすじです。
このあらすじを読んで気になり、本屋で1ページ目を開いた私は驚愕しました。
何故ならこのお話は、チャーリイの一人称視点で書かれているお話だからです。もうお気付きかと思いますが、最初の30ページ位は読むのに苦労します。
しかしそれを超えると目覚ましいスピードで、文章が進化していきます。
この視覚効果が、まずもって面白い仕掛けだな、と思いました。
一文目を読む前から読者の度肝を抜ける作品は、なかなかないと思いました。笑
あとは他の名作にも言える事ですが、素晴らしい作品は、"読者を他人事にしておいてくれない"所がありますね。
私は初め、どこかチャーリイを可哀想だと思いながら見ていた所があると思います。
彼が『友達』と呼んでいる人々が、彼を対等な立場として扱っている訳ではないのだと、読者である私には理解できたからです。
知能が上がる事で、この事実を知ったチャーリイはどう思うのかと心配になりました。
しかし話が進み、彼が周りの健常者達よりも高い知能を持ち始めた時、彼に対して周りが怒るのです。
自分をばかだと思っているのだろう!と。
その時のチャーリイは、確かに鼻持ちならないと思っていたのです。だって平気で、「〇〇も〇〇も知らない?〇〇語も〇〇語も話せないの?嘘だろう…?」なんて彼は言ってしまうのです。
チャーリイの周りにいる人達のように、いつしか自分も彼を見守るようになっていたのかもしれません。
最後に翻訳家の方のあとがきが載っているのですが、いいなと思った所が二箇所ありました。
一つ目は、著者であるキイスさんも翻訳者である小尾さんも、冒頭のチャーリイの文を知的障害のある方の文を参考に書かれているという点です。
二つ目は、キイスさんが出版社に本作を持ち込む際、編集者に分かりやすいハッピーエンド(チャーリイは天才になって、綺麗な彼女と結婚)にしろと言われた際、彼の友人がそれを止めてくれたエピソードです。
本作は確かに大団円では終わりません。
でも、私はあのラストがとても好きです。
穏やかで優しい気持ちでラストの一文を読めたのが、とても心地よかったです。
本作の中で描かれるシーンは、キイスさんが実際に人生の中で垣間見てきたシーンなのだと思います。
彼は知的障害を持った子達にも勉強を教えていたそうですからね。
やはり小説は、誰かの人生を追体験できる物なのだろうな、と思います。
自分が経験した以上に、雄弁にそれを語る事は出来ないと思うからです。
素晴らしい作品に出会うと、素晴らしい人に出会った、という感動を覚えます。
キイスさんは既に亡くなられている方ですが、彼は人生で素晴らしい発見が出来た方なのだろうなと思いました。