「ようこそ、駆人《かると》君。
貴方には剣と魔法の世界で王子として転生して頂きます。
勿論、最強の魔力……チートを手にして」
白い空間に目の前には絶世の美少女。
彼女は自身を女神ターニャと名乗る。
車にはねられた記憶はない。
いつの間にかここに居た。
女神曰く、本来は死ぬ予定ではなかったが、間違えて殺してしまったとか。
お詫びにチートとか付けて魔法の世界へレッツゴーらしい。
真面目に生きてきた。
物事の筋道を考え、やるべきことを考え理屈と論理を整えて。
こんな……今までの人生を全否定するような、どうでも良いような終わり方をするために毎日努力し続けたわけではなかった。
同時に、思う。
人生ってこんなもんだよな。
頑張ったことが時に別の理屈で、あっという間に踏みにじられる。
「気に入りませんか?」
見目麗しい女神ターニャは不思議そうに首を傾げる。
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー、なんかもう、どうでも良いや。
女神美人だし!
今、目の前に女神なる青髪の目鼻が整った少女が居る。
おそらくだが、こいつは俺の期待する姿を取るのではないか? そう思った。
理由は簡単だ。
時代ごと、人により好みは違う。
ミロのビーナス像が絶世の美女というように、神なる美の化身ヴィーナスのように、そしてとある大多数アイドル相手であってもそれぞれ好みが分かれるように。
人にはそれぞれの好みがある。
単純に俺の好みの顔……スタイルも含め、姿形が俺の好みだからだ。
青髪好きなんだよなぁー。
でも青髪は色んな意味で危険だから黒かな。
金髪は何というか、パッキン美女よりパッキン美少女が好きかな?
アレも良いね! 悩む。
あ、目の前の彼女の髪色が黒に変わった。
心を読んだのか、そういう存在《もの》なのか。
俺の潜在意識は黒髪好きなんだな。
ロング清楚系。
最近寝取られそうな危険なやつだね!
「ねえ、もう話していい?」
「あー、うん。」
色々説明された。
剣と魔法の世界でドラゴンやら魔王やら居て、俺はそこの第2王子に転生するらしい。
目的は特にない。
世界のバランスがどうだこうだ。
ステータスと言えば能力が見える、云々カンヌン。
ふーん。
「じゃあ、心の準備が出来たらそこの扉を開けて」
「了解」
ガシッと美少女女神の腕を掴む。
「はれ?」
美少女女神は何事か分からず、自身の腕を掴んだ俺を見る。
どうやら、俺の心を読める訳ではないらしい。
俺はガチャと扉を開けた。
美少女女神の腕を掴んだまま。
「ええぇぇぇーーーーーーーーーー!?
な、なんでぇぇええええええ!!??」
「うるさい! 美少女女神が目の間に居たら、連れて行くに決まっているじゃないか!」
扉に吸い込まれていく俺、呑み込まれまいと足を踏ん張り粘る美少女女神!
「は、放せぇぇぇぇぇええええ!!!」
「だーれがー放すかーーー!!
ターニャァァァア!!!
貴様も道連れだぁぁぁぁぁああああ!!」
ジリジリと扉に吸い込まれていく俺たち。
「どこの亡者だぁぁぁあああ! 放せぇぇぇぇえええええ!!!」
美少女女神が、女神の底力を発揮して扉に入りかけた自らの身体を部屋に引き戻し始めた。
腕を魔力で繋いでいるが、それも引き剥がされそうな勢いだ。
だが!
与えられた魔力の奔流が俺と美少女女神を包み込む。
「チートをぉぉぉおおおおお!!!!!
舐めるなァァァァァアアアアーーーーーーーーーーー女神ぃぃぃぃぃいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」
「ギィヤァァァァアアアアアアアアアアア!!!!!」
これに懲りたら、もう異世界転生なぞ企むな、神々よ!!
俺たちはシュポッと扉に吸い込まれて……。
こうして、俺たちは新たな世界カサンドラに生まれ落ちた。