※「懇意にさせてよ 青井さん」「灰色な君は」より、青井さん、双葉さんが登場。
※本編とは関係ない過去の話です。
※これは作中で本当に起きたことなのか、妄想なのか。ご想像にお任せします。
※なろう、pixivにも同じものを投稿します。
……………………………………………………………………………
「ねえ、本当に良いの?」
「はい。来月からは私もここに住みたいです」
三月一日。卒業証書を片手に若葉ちゃんは私の部屋にやって来た。
若葉ちゃんの告白を受け入れたものの、私たちは社会人と大人。その分厚い壁に二年間も隔てられてきた。
慣れない社会人生活に、一人暮らしに。
若葉ちゃんと会う時間をなかなか作れなかった。たまの休みに会ってお茶をする。付き合ったものの、私たちの関係は何も進んでいなかったのだ。
それに若葉ちゃんが高校生というのも原因の一つだった。
私たちは高校の先輩後輩。歳もそう離れていない。
なのに、社会人になって若葉ちゃんを見る度に子供に手を出しているような疚しい気持ちに苛まれた。
それを若葉ちゃんに正直に言えず、ずるずるとここまで来てしまった。
二年間も付き合っているのに、私たちはまだキスすらしたことがない。
「私は構わないけど、親御さんとか……」
「もうちゃんと話してあるから大丈夫ですよ。高校の時の先輩とルームシェアするって」
……高校の先輩、か。
たまに心配になる。本当に若葉ちゃんは私のことが好きなんだろうか。私に告白した高一の夏、あの時の気持ちはただの勘違いだったんじゃないかって。
もしそれが本当なら若葉ちゃんは優しいから、私に勘違いだったなんて言えないだろうし……。
気づいたら私ばっかりが若葉ちゃんのことを好きになっていた。
仕事で嫌なことがあったら電話して話を聞いてほしいし、土日だって本当は毎週会いたい。
でもそんな私の勝手を押し付けられない。高校生だって忙しいだろうし。
だからこうやって一緒に住めるのは嬉しいんだけど……。
「若葉ちゃん、無理してない?」
「無理ってなんですか。千秋先輩こそ変ですよ、今日。なんでそんなに離れてるんですか?」
「いや、だって……」
もう言ってしまいたい。若葉ちゃんは本当に私のことが好きなのって。まだ好きでいてくれてるのって聞きたい……!
「……楽しみにしてたんですよ、今日」
「え?」
ぷいっと不貞腐れたように顔を逸らしながら、若葉ちゃんは何か呟いた。
「やっと高校を卒業して堂々と付き合えるんですよ、私たち。……先輩はそんなに嬉しくないですか?」
「私だって嬉しい!」
つい、大きな声が出てしまった。
危ない、危ない。このアパート、そんなに壁は厚くないんだから気をつけないと。
「今まで気にしてたんでしょ。私が高校生だから」
「え、知ってたの……?」
「見てたら分かりますよ。外を一緒に歩くだけでも顔が強張ってたから」
指摘されて急に恥ずかしくなった。
てっきり何も気づいていないと思っていたから。それがずっと知られていたなんて……! 穴があったら入りたい。
「千秋先輩、お待たせしました。もう大丈夫ですよ」
「大丈夫って……」
若葉ちゃんは私に寄りかかり、両腕を背中に回した。あまりの顔の近さに照れてしまう。だって、こんなこと、今まで一度もなかったから……!
「もう千秋先輩は私に手を出しても良い」
カァっと顔が熱くなる。きっと今、私の顔は真っ赤になってる。鏡を見なくても分かる。
「それに私も……」
より一層、若葉ちゃんの顔が近づく。……え。
「私も千秋先輩に手を出しても良い。ね、良いでしょ」
私の返事なんて待ってくれない。優しいキス。唇に、頬に、おでこに。顔中にキスの雨が降り注がれた。
「好きですよ、先輩。やっとこういうことが出来て……嬉しい」