2年半近くの連載が、本日をもって最終話を迎えました。
本当に本当に、今日まで魔石グルメをご愛読いただきありがとうございました。
私が今日まで連載を続けられたのは、いつもアクセス下さった皆様のおかげです。
何度目か分かりませんが、重ねてお礼申し上げます……!
魔石グルメは連載開始から少しした頃に、最終章までのプロットを考えて書いていた物語です。それが最終回を迎えて物語が一段落したのだから、ということで一度完結とさせていただきました。
とは言えお伝えしていたように、アフターストーリーとして連載を続けていくつもりです。
実は昨年の夏ころからプロットを書いておりました。
更新頻度は今の週二回から週一回などになるかと思いますが、引き続き、ブックマークを頂けている魔石グルメでお付き合いいただけますと幸いです。
また、更新できていなかった別の物語も更新を再開しようと思っております。
もしよければ、こちらもご覧いただけますと嬉しいです。
最後になりましたが、予告としてアフターストーリーの一部もご紹介させて頂きます。
最終話のあとで読後感も何もありませんので、後で読んでくださる方は飛ばしていただけます幸いです。
重ねてになりますが、今日まで本当にありがとうございました!
twitterでも更新などをご連絡することがございますので、もしよければ、併せてご覧いただけますと幸いです!
◇ ◇ ◇ ◇
荒れ狂う海はどこまでも暴力的だった。
海原に住まう魔物ですら深い海中で息を潜め、純粋な自然の暴力に対して無力であると言ってもよいぐらいだ。
されど、数十隻に及ぶ艦隊は我が物顔で航路にあった。
いずれも技術の結晶たる兵器を積み、全体を魔物の素材に加え、人口的に開発されて間もない素材で覆われていて堅牢。
荒波に嵐、それに魔物。
何に襲われても恐怖を感じる事なんてなかったのだ。
――――先頭を進む船。
その甲板には一人の男が居た。
「黄金は力……この考えに間違えはなかった――――」
強烈な雨と風を浴びながら両腕を翼のように広げて語る雄弁さ。
威風堂々とした立ち姿に漂う誇りに皆が息を呑み、彼についてきたことへの喜びと、これからの未来に強い期待を抱かせられる。
彼の声は、魔道具を通じて各船へ届けられていた。
一帯の船が揺れているのは波のせいか、それとも彼の言葉に応じる歓喜の震えか。
なんにせよ、この海域を我が物顔で進む自分たちのことが、神か何かのように思えてきてならない。魔物だけでなく、自然的驚異ですら意に介さずにいられるという事実が、偏に心を昂らせていたのだ。
「辺りの霧が濃くなってまいりました。ロックダム沖でこの濃霧は珍しいのですが……」
「構わないよ。さぁ、進むんだ」
男は部下の報告に手を挙げて応える。
たかが霧であると。
注意を払うべきは味方同士の衝突だが、その心配はしていなかった。
しかし、不意に波がなくなった。最初から波なんてなかったと言わんばかりに、忽然と。
辺りを見渡すこと数秒。
率いていた艦隊と自分の船、それを取り囲んだ濃霧の檻。
「度々申し訳ありません……ッ! わ、我らの船が一隻も進めず……どうしてか分からないのですが……水の流れが我らの進行を遮っているようで……ッ!」
「艦隊の進行を? 魔物でも現れたのか?」
「それすらも分からないのです……ッ! どうか船内一度船内にお戻りください!」
「大丈夫、我々の戦力なら何も心配することはない」
「ですが……」
「万が一何てあり得やしない。アレがある限り、我々の海上戦力は絶対に――――」
万が一何てあり得るはずがなかった。
この計画のために費やした年月、そして資金は途方もない。だが、それだけではなく入念な支度に予断は無かったし、これ以上ない最高の計画だったから。
正面の海から、とある男の声が聞こえてくるまでは。
「――――こんにちは」
いくら辺りに波がないと言えど、ちっぽけな人間の声が届くという異常。だが船尾に立つ二人の耳には確かに聞こえてきたのだ。
目を向けると、いつの間にか数十メートル先に現れていた太い木の根。
そして、その上に腰を下ろした一人の男の姿がある。男は海面を見下ろしていて素顔は見えない。ただ、雨に濡れた濃い茶髪が艶っぽく首筋に付着していた。
彼を見て、船尾に立つ男は無意識に全身を震わせる。
震える自分に理解が追い付かぬまま、生存本能に従って指示を出すのだ。
「あの男に向けて魔石砲を」
なぜそのような過剰攻撃を? 隣に立つ男がそう呆気に取られていたのを見て、彼は激昂する。
「早く放つんだッ!」
「は……はっ!」
両脇を守るように進んでいた二隻の戦艦が主砲を放つ。
ただ一人、目の前にいた男に向けて。
極彩色の光と波動、そして衝撃波で大波が生じて圧倒的な暴力となって襲い掛かる。さながら歴史に残る戦争のように、すべてを跡形もなく消し去ろうとする殺意の塊だ。
「何故だ。あと少しだったのに、どうしてあの男が……!」
指示を出した後で男は固唾を飲んで見守った。あれなら絶対に大丈夫だと。心から信じて、心からの安堵を得られるであろう数秒後を懇願して。
だが、不自然に濃霧の檻の中が陽光に包まれたとき。
つづいて空を見上げ、割れた雲を見てしまったときに願いは叶わなかったと理解した。
「悪いけど」
そういった男はいつの間にか木の根の上で立っていた。
「こっちも戦力には自信があるんだ」
言葉につづいて剣閃が海を駆け。
両脇を進んでいたはずの戦艦がまばたきの合間に両断された。
刹那の衝撃が強風となり海面を撫でる。
木の根に立つ男はやがて、水で濡れていた髪の毛を手櫛で乱暴に掻きあげた。彼は陽光の下に素顔を晒し、心地良い海風を浴びながら船を見ていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「私は少しの間そのままでもいいけど? 貴方がそうして鎖で繋がれているのなら、私が何をしても許されそうだもの」
「…………いや、強引に引き千切ることは出来るよ?」
「でもしてないじゃない。何かを目的があってここにいるんでしょ?」
そりゃ、当然だろう。
シャノンに看破されたことに特に衝撃も受けず、アインは「だよね」と短く返した。元よりこんな鎖何て意味はないし、というか、どれほど強固な鎖であろうと引き千切れる自信がある。
「近いうちに何処かへ――――」
「ダーメ。それは前に言ってたお礼じゃない。別の事が良いわ」
「そういうことには疎いんだ。悪いけど、シャノンが何を欲してるのか教えてくれると助かるんだけど」
「ふぅん……聞いちゃっても良かったの?」
じめっぽい地下牢の中でも、彼女は艶と気品を失わずアインの前を上機嫌に、軽快な足取りで歩いていた。両腕を鎖で繋がれた彼にしな垂れかかると、片方の頬に手を添えて、もう一方の手の指を自分の唇に押し当てたのだ。
◇ ◇ ◇ ◇
ここまでがアフターストーリーの予告となります。
クローネにクリス、そしてオリビアたちが可愛いお話も勿論ですが、またアインの活躍を沢山描いていきたいと考えております。
引き続き、どうか魔石グルメをよろしくお願い致します。
またアフターストーリーでお会いできることを心より願いまして、今回のご挨拶とさせていただきます。
結城