本日の更新をより面白く読む為の
おまけSSを用意してみました。
「(ディストピアSF時代の)アメリカ人ならではの視点」の
解像度が上がります!
更新後に読んでも良いし、
更新前に頭に入れて事前に解像度を上げてもおk。
▼18:00に楽しめる新視点、今しばらくお待ちください!
https://kakuyomu.jp/works/2912051605209644744
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【おまけSS】サイボーグとただの馬鹿
「シオン、ひとつ聞いていいか」
着金額をみたパニックからも帰還を果たし、素数を数えて落ち着きを取り戻す漫画のキャラクターを見習った結果......
『ドリッパーを用意して豆を挽き、コーヒーを淹れる』という手法を用いて全力の現実逃避(スプリント)をキメている真っ最中、健矢はふと思い出したように呟いた。
イタリア1,200kmブルベのアーカイブ動画。そのコメント欄の隅に、英語や怪しい自動翻訳の日本語で何度か躍っていた単語がある。
『この日本人はどのメーカーの人工心臓を使っているんだ?』
『サイボーグだろ。心拍150で40時間以上出力を持続できる生身(ナチュラリスト)が存在するはずがない』
「はい、マスター。動画サイトからの着金データの集計作業中ですが、質問の受付は可能です」
宙に浮かぶ視覚化プロンプトから、相変わらず感情の籠もらないシオンの声が響く。
「コメントに『身体改造されたサイボーグ』って書かれてたんだよ。俺はペダリングの効率化と心拍数の引き上げ以外してねぇし、何も身体にメスなんて入れてねぇぞ......。あいつら、本気で言ってるのか?」
「本気です、マスター。正確には、北米ドーム都市圏および富裕層投資クラスタにおける『解釈の限界』と表現するのが適切でしょう」
シオンは画面の脇に、北米メインドーム内部の最新プロモーション映像を投影した。
そこに映っていたのは........完璧に空調管理されたドーム都市のプールサイドで贅肉の垂れた身体を横たえる富裕層たちの姿だった。彼らの首筋や胸部や四肢からは、鈍い銀色のアクセスポートや高弾性アクチュエータ(人工筋肉)が覗いている。
「現在、北米ドーム圏の富裕層におけるトレンドは『機能の外部依存と内部置換』です。彼らは運動を拒絶します。汗をかき、乳酸を溜め込み、心筋を疲弊させる行為は、2000年代初頭の無知な野蛮人が行う自傷行為と定義されていますから」
「……じゃあ、あの身体についてるゴツい機械はなんだ?」
「代謝をコントロールする人工肝臓、脂肪を直接分解するスマートナノマシン、そして心臓麻痺を起こさずに最高血圧を維持するためのリザーブ付き人工心臓です。彼らにとって『身体能力の向上』とは、鍛錬ではなく『モジュールの換装(身体改造)』を意味します」
シオンは冷静なトーンで続け、ドーム住人たちの生体データを画面に弾き出した。
「彼らに言わせれば、生身の心臓で拍動を150まで跳ね上げ、乳酸に苛まれながら1,200kmペダルを回し続ける人間など、原理的に存在し得ません。彼らの認識では、心拍150を数十時間維持すれば、人間の心筋は破裂するか、脳梗塞を起こして即死するからです」
だからこそ、とシオンは画面のコメント欄を指し示した。
「彼らはマスターを『極秘裏に最新型の高耐久人工心臓と複合繊維筋肉を移植された、アジアのサイボーグ実験体』として処理しなければ、自らの知性に折り合いがつけられないのです。快適な温度のぬくぬくとした部屋で、パウチのスープすら自動給餌器に頼る彼らにとって、生の肉体と電動要素が106のコンポだけという環境で走るマスターは……『怪獣』か『サイボーグ』の二択しかありません」
健矢は呆れたように鼻で笑い、自分の前腕を叩いた。日焼けで黒く焦げ、血管が太く浮き出たただの生身の腕だ。
「サイボーグねえ……。高額な金を払って身体を機械に変えて、快適なドームの中で俺の走りに投げ銭(着金)してるわけか.......なんだそりゃ。別に自分の足で自転車を漕げば、タダで最高の脳汁が出るってのに」
「彼らからすれば、マスターのその思考こそが狂気(バグ)です」
シオンの無機質な声に、ほんのわずかだけ呆れが混ざったように聞こえた。
「ですが……その『理解不能なサイボーグの激走』に恐怖し、狂喜したアメリカの富裕層から一般の家畜まで、マスターの口座に数千ドル単位のドネーションを叩き込んでいます。生身(ナチュラリスト)の狂気が、機械に頼り切った家畜たちの退屈な日常を破壊した証拠です」
「……ま、金になるならサイボーグでも何でもいいさ。だが言っておくぞ、シオン」
健矢は冷めたスープを飲み干し、愛車の方を振り向いた。
「俺のフレームにも、俺の心臓にも......余計な機械や配線を入れるスペースなどない。106改とこの脚があればそれで十分だ」
「了解しました、マスター。……なお、次回の海外ドネーション用サムネイルのタグラインは『サイボーグ疑惑の男』に変更しておきます」
「おい、やめろ」
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おまけSS、いかがでしたか?
▼2026/9/518:00から楽しめる新視点、今しばらくお待ちください!
https://kakuyomu.jp/works/2912051605209644744