6月の稀に見る快晴の日。昨今では珍しく気温もそこまで高くない。風速20m/s(メートル毎秒)。坂道を下る自転車で感じる風が、ひんやりと肌に当たる。
緩やかな車道の上り坂は、片側に白いガードレールがついて、もう片方は山肌が見えていた。木々が日差しを遮りながらもアスファルトを強く照らしていく。車は二、三分に一度の割合で横を通り抜けていった。
山頂を目指しているわけではない。
自転車で少し遠出をしよう。
そんな気分で走り出した。持ち物は、ペットボトルと少しのお金ぐらいの身軽な散策だ。
平坦な道の少ない山々に囲まれたこの場所で、ふと僕は思い出した。
人為的に作られた前人未到の山と言う話を。
それは海外にあって、人々の信仰のもと、山に立ち入らないことを定めて、今も守り続けている山なのだそうだ。断崖絶壁というわけではない。ものすごく高い山というわけでもない。
悪く言えば集団幻想とも言える信仰は、きっとそこに住む人々も明確な意味を見いだしているわけでは無いだろう。本当の理由はきっといつの間にか消えてしまったのではないだろうか。
それでも人々は敢えて踏み切らないことを選んだ。
今でもそれを守り続けている。それは外部から訪れる多くの登山家も同様に。
それは、それはなんと言うかーー凄いことなんだと思えた。
安易な感想だ。僕もそう思う。ただ漠然と湧き上がってきた言葉がそれだった。飾り気のない純粋な思いだった。
僕は自転車を停止させ、ペットボトルを少し口に含む。ホルダーに戻して、再びハンドルを握る。どこへ行くでもない。ただの散策。
日差しが強まる中、僕はただペダルを漕いだ。
風は優しく流れていく。
なんてことはない。6月のある日の話だ。