はい、というわけで先ほど完結しました。
せっかくなので少し長話でも。
このコンテスト、実はカクヨムではなく会社に届いたメールで知ったんですよ。当時私はアンチウィルスのメーカーに勤めてまして、その会社がJNSA所属だったんですね。サイバーセキュリティ小説コンテストをやるよと。カクヨムですよと。見た瞬間に応募決めましたね。プロがプロらしい話を書いてやろうと思いましてね。
私も業界人のはしくれとして「サイバーセキュリティほど面白いものはない!」と思っていますので、それを少しでも多くの人に届ける方法として、このコンテストはうってつけでした。読者から目をそらして小手先の技術に走るのが嫌なので、普段は受賞・書籍化はあまり意識しないようにしているのですが、今回は暴れてやろうと。プロのプライドを見せてやろうと。そんな意気込みをぶち込みました。
書き始めて、様々な壁も感じました。普段のコンサル業とは違い、業界人だけでなく一般の方にも読んでもらう。となると業界にはびこる難解な表現や横文字・3文字略語は使えないし、仕事の面白さも肌感覚含めて説明しないとならない。そこで普段の仕事はいったん忘れて、全部平易な言葉に書き換え、仕事内容もすごく単純化してしまいました。そのためショウ君もサク君も一部のシーンを除いては業界用語は話しませんし、開発や販売のペースも一般的な企業に比べて超高速です。それでいいと思いました。
それと、社内や客との軋轢でギスギスな毎日も描くのは絶対にやめようと思いました。ブラック描写がどんなに上手でも、それじゃなかなか「きみの物語で世界を救え!」というキャッチのイメージにならない。深夜残業や人間関係、安月給などでつらい思いをしてたって、心の中では技術が大好きなエンジニアはたくさんいるんです。だったらそっち方面のしみったれた話は大胆に切り捨てて、未知の技術を学ぶ楽しさ、知識を応用する知的な面白さ、技術がもたらす希望や未来を描きたい。そして一方で、それが世界を壊す恐ろしさもあることも描きたい。それが私にとっての「きみの物語で世界を救え!」でした。
加えて、ドラマも強くするよう心がけました。メインテーマは私がすべての物語で描いてきた「同性同士の友情」にしました。知識と情報の羅列にはしたくないし、女の子に囲まれて楽しくプログラムを書く日常系、というのもあまり得意ではないし。ただ、ITがからむガジェットは片っ端から詰め込み、ラストまでしつこく出てきます。この前まではSFの中のお話だったのに、もうその未来は来てるんだぞ、というのも伝えたかったところです。オタク知識や神話に由来する会社名・製品名なんかも、一般読者を楽しませたくてたくさん盛り込みました。盛り込みすぎたかもしれない(笑)
本作がレーベルの路線に合うか、選考を抜けるパワーがあるかは私にはわかりません。ですが、少しでも多くの人たちにサイバーセキュリティの面白さ、怖さ、素晴らしさを伝えられたらいいなあと思っています。
「その色の帽子を取れ」は、プロの全力をぶち込んだ作品です。
興味を持っていただいた方、ありがとうございます!
読み終えていただいた方、本当にありがとうございます!
梧桐彰 拝