私の初めての短編小説
『取り残された春』
8月5日（火）、公開予定です。
――桜の舞う季節に、
僕はもう、生きていなかった。
声もなく、鼓動もなく、
ただ風のように、その場所に立ち尽くしていた。
名前も、記憶も、ぬくもりも――
すべてを失ってしまったはずなのに、
なぜか“君”の気配だけが、胸の奥に残っていた。
やがて、春の光をまとった少女が現れる。
忘れていた感情が、そっと目を覚ます。
終わりを知った僕が見つめる、始まりの春。
命の境を越えて紡がれる、静かで儚い一篇です。
この物語に、登場人物の名前はありません。
それは、読んでくださるあなたが
心にいる“誰か”を重ねてくれたらと願ったから。
夏の陽ざしのなかで、
春に取り残された想いが、
あなたの記憶とやさしく重なりますように。
静かな時間に、
そっと開いていただけたら嬉しいです。