「これはどういうことですか」
「ええと……これは、その……」
しどろもどろな女神ノルン。頬には冷や汗が見えます。
「やっぱり無理だったみたい。ごめんね♪」
「【黒淵】」
「ちょ……!? この子、ちゅうちょなく撃ったんだけど!?」
「どうせ致命傷には至らないのです。慌てなくてもいいでしょう」
あわよくばと思いましたが、だめだったようです。【夜の姫君】のローメも少し無念そうですね。
せめて【闇を統べる女王】に進化させて――いえ、シュウ様がこの場にいません。あの方の魂の輝きを借りられなければ難しいでしょう。
「か、可愛くない……!」
「むだに可愛い子ぶる、どこぞの女神よりはマシでしょう」
女神ノルンを睨む目に力が入ります。
当然です。シュウ様と一緒にニホンなる国へ行こうとしたのに、シュウ様と遥、それに玲子以外は取り残されてしまったのですから。
「やっぱり無茶だったのよ。特にあなたたちはこの世界で消滅したダンジョンコアが、ダンジョンで創造した生命。本来ならダンジョンが消えた時点で役割を終え、ともに消滅してたんだから」
それを女神ノルンが、消えたダンジョンコアと一緒に落ちてきた前世界のシステムから情報を取り込み、私たちを再構築することで防いだ。
つまり、いまの私たちはある意味、この世界の住人なのです。
「私が取り残された理由については、納得はできませんが理解はしました。ですが、エイリスたちはどうして同行できなかったのです?」
特殊な生命体である私たちならともかく、エイリスたち現地組はまっとうな生命を持っているはずです。
「それは単純。向こう――日本の神に拒否されたから」
聞き捨てなりません。シュウ様と私を意図して引き離すなど言語道断です。ただちにカチコミに行かなければ。
「怖い顔してもだめよ。シュウというルールブレイカーがいない限り、神のもとへは辿り着けない」
「む……」
これには私も黙るしかありません。実際に私と女神ノルンでは、実力関係なしに格の差があります。それを埋めていたのがシュウ様でした。
シュウ様は前の世界でも英雄種へ進化しており、こちらの世界にきてからは消滅したダンジョンコアの力を少なからず吸収しました。
そして数多くの悪魔と魔神を討ち取った。特に魔神王を倒した時は女神ノルンが封印されていたので、流れ込む力を制御する者もいませんでした。
「その力がすごく厄介なのよ。よく日本の神は受け入れたものだわ。恐らくはそのままにしておかず、なにかに流用するんでしょうけど」
「私たちはシュウ様とともにいた恩恵を多少なりとも受けています。ニホンの神にいやがられた原因はそれでしょう」
本当ならシュウ様も受け入れたくはなかったでしょうけど、あの方はそもそもニホンの方。
ダンジョン世界へ訪れたのも、シュウ様の意思ではありませんでした。その点をニホンの神は考慮したと思われます。
「自分たちはもう、シュウ殿に会えないのでありますか!?」
ジェシカは涙目です。
私たちの中においてキャラクターが弱いと、いろいろがんばっていまの形に落ち着かせたら、肝心のシュウ様がいなくなりましたからね。気持ちはわかります。
「そう悲観するものではありませんよ」
私がジェシカをなだめていると、魔女のライファが小さく笑いました。
「なにか手があると思ったわ。そうでなければ、ケレブリルがここまで落ち着いてるわけないもの」
【執着】は同族。個にして群。核たる私が激しく取り乱せば、他の【執着】にも波及します。いまごろ神界は大惨事だったでしょう。
「どれだけ引き離されようと、追いかければいいのです」
むしろ、そうしない理由がありません。
「たとえば、女神ノルンは異世界との扉を開けます。生き残りの悪魔を探して封印の方法を習い、それを脅しに使うとい手もあります」
「こわっ!? この子、すっごく怖いんだけど!?」
「ケレブリルはシュウの腹心ですから」
ガブリエルは、シュウ様がこの地を去っても小さいままです。いまは女神ノルンの肩にちょこんと座っています。
「その際は妾に任せるがよい。前の世界では冥府の女王をしておったでな。拷問には慣れておる」
「私もお手伝いしましょう。ウフフ。神や天使を堕としたらどうなるのでしょうか。ウフフフフ」
「妾は知らぬが……そうさな。他の神には敵視されそうじゃな」
「それは困りましたねぇ」
ヘルとティエナが、わざと女神ノルンへ聞かせるように話しています。この2人であれば、たとえ神が相手であろうと本気でやるでしょう。
「その必要はありません」
ヘルとティエナが、興味深そうに私を見ます。
「女神ノルンは先ほど、ニホンの神がシュウ様とともに流れ込む力をなにかに利用するはずと言いました」
大気中へばら撒くにしろ、シュウ様から聞いていたニホンという国にはそれなりの変化が起こる。
「そうなれば、私たちを受け入れる下地も整います」
あとはこちらからニホンとやらに行けばいいのですそのための手段にも心当たりがあります。
「ケレブリル……お主、ダンジョンを利用するつもりじゃな?」