ラビラビ族のいた世界から、異界渡りの扉を開いて降り立った次の異世界。
私たちの視界へ真っ先に飛び込んできたのは、一面のクリスタルでした。
「しかも7色っスね」
「まるで虹みたいであります」
ジェシカがうっとりします。戦う姿は猛々しいのですが、普段は可愛い物が大好きな女性です。シュウ様によれば、テンプレと言うようです。
「ライファ、すぐに大気の状態などを調べてください」
【夜の姫君】たるローメを召喚し、安全のために闇の結界を張ってもらっています。私は同じ過ちを繰り返さない女なのです。
「息は普通にできるわ。でも、魔力濃度が高い。尋常じゃないわ」
なにか問題があった世界ということなのでしょうか。
「……詳しく調べないとわからないけど、恐らくは」
ラビラビ族の世界も危険でしたが、ここはそれ以上かもしれません。
「ローメ。もう少しだけ力を貸してください」
いつもみたいに威勢のいい声が返ってくると思ったのですが、黒のゴシックドレス姿の闇の大精霊はこちらを見もしません。
「ローメ?」
私のみならず、ライファ、ラディル、ジェシカ、ヒルデ、カレラというニホンを目指すメンバー全員がただならぬ事態なのを察します。
「敵ですか?」
「俺の【気配察知】には引っかからないっス! ヒルデの姐さん!」
「敵の臭いはありません。というより、生物の臭いがしない……?」
なんですか、それは。死の世界だとでも言うのでしょうか。
「む……! やはりか……!」
ようやく言葉を発したと思ったら、ローメは結界をさらに厚くします。
「ケレブリル! 何者かがワタシの結界を侵食しているぞ!」
闇の大精霊の結界を浸食? 破壊でも解除でもなしに?
「いいか、お前たち! ワタシの結界から出るんじゃないぞ!」
大気まで虹色に染まりだし、結界を包み始めます。
「まさか、このクリスタルが敵ですか?」
「モンスターの気配なんてしないっスよ!?」
「臭いもしません! 本当にクリスタルが……?」
「試せばわかります。ライファ!」
ローメには結界を張り続けてもらわなくてはなりません。攻撃はライファに任せましょう。
「《猛氷爆》!」
魔力で生み出された氷の花が、結界の外に広がる虹色のクリスタルに直撃します。
「うそ!? 氷がクリスタル化してくわよ!?」
謎のクリスタルが敵対生物である可能性が高まりました。魔法を弾くのならまだしも、浸食するなどただの物質にできるはずがありません。
「もう1度! 今度は強力なのをお見舞いしてやるわ!」
ライファがリュックからワオワオ族の牙を取り出します。魔女は触媒を使うことで、魔法の威力や範囲を高められるのです。
しかし、2発目の《猛氷爆》もクリスタルの餌食になりました。透き通っていた氷の花が7色に輝き、そして砕け散りました。
「自分たちも、あのように殺すつもりでありますか!?」
「だとしたら最悪の敵ね!」
こうなればローメに【黒淵】を撃ってもらうしかありませんが、それには結界を消さなくてはいけません。
「ライファの結界でどうにかできませんか?」
「難しいわ。どんな属性で攻撃されてるのかわかれば、いけるかもしれないけど……」
「物理攻撃用ではどうですか?」
「うー……やってみるしかないか……」
ライファがまたしてもワオワオ族の牙を触媒に使い、物理攻撃を防ぐ《対攻結界》を張りました。
「ローメ! 【黒淵】を!」
「任せておけ!」
闇の結界を消すなり、ローメが全力で【黒淵】を放ちます。
「効いていませんね……」
確かにクリスタルの一部が、闇の異空間に呑まれたはずです。なのに消滅せずにそのまま戻ってきました。
「ライファの時と同じですね。魔法そのものに耐性があるのでしょう」
シュウ様も【火属性無効】のスキルを持っていました。
「それならば魔法以外で攻撃します。カレラ、お願いします」
「承知!」
カレラが水竜へと変化し、大木ですら軽くへし折りそうな水のブレスを吐きます。
「これでもだめなんスか!?」
ラディルの驚きは、私たち全員のものです。まさか異界へ渡るなり、こんなとんでもない敵と遭遇するとは思いませんでした。