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※この作品はシリーズもので単体の視点から感想を書いていますが、シリーズの方に言及することもございます。
彼、Hは何も怪異に怯えているわけではない。(https://kakuyomu.jp/users/morizo1202/news/2912 参照)
この作品の抱える「因果律の不自然さ」に困惑を覚えたのだろう。
――この世にはね、呪いも不思議なことなども何もないのだよ。
あるのは人間の認識と都合だ。
設計の段階で、都合によって捻じ曲げられた「作中の事実」。
Hの胸に巣食った『ホラーなのに怖くない理由』。これを晴らしていこうじゃないか。
タグとあらすじから「現代社会を舞台にしたサイコホラー・サスペンス・ミステリー」というジャンルを標榜しているが、その世界設計の解像度が低いと言わざるを得ない。
件の格安社員寮は『14畳のワンルームに4畳のベランダ、家賃1万円、待遇は月給30万から』と提示されている。
状況から察するに「社員寮」の募集案内のはずなのだが、なぜか月給の「待遇」が混ざっており、これでは『住むだけで月給がもらえる』という、闇バイトもかくやと思わせる不思議な理解が生まれかねない。
Hが感じたように、創立10年のベンチャー企業が、社内向けの掲示物としてこのような「求人票」のような記載をすること自体に、強い違和感を覚えざるを得ないのだ。
これがもし、社外向けの求人票に『福利厚生の一例』として出されているのならば、たとえ「ワンルーム14畳、4畳ベランダ付きで家賃1万円」という、どう見ても怪しい好条件の物件だったとしても、まだ社会的な辻褄が合う。すでに雇用されている身内に対して、改めて月給を提示する書類を社内に張る組織など、現実には存在しないだろうから。
続編のストーリーでも同様のことが言えるが、こうした「社会インフラとしての説明」が著しく不足している以上、作品の舞台にどこか共感できる現実味(リアリティ)を掴めないというのが、怖さを感じない大きな一因だろう。
今回の作品はマクロな視点なぶん、ホラーとして読むなら怖くないが、「とてつもない嫌な大馬鹿が勝手に自滅した」という、ある種のスカッとホラー(B級サスペンス)として見ることができるだろう。
しかし、続編の方はこの構造的な「世界観のゆるみ」が特に目立っており、過剰なキャラクターの属性を持たせることで、最初から「異常な会社の中で異常が起きる」という、例えるなら『貞子にペニーワイズが出てきたら怖いだろう』というような、記号を盛りすぎた雰囲気になってしまっている印象だ。
冒頭でも言った因果律の不自然さ・不整合が目立っているというのは、まさにこの「社会派を謳いながらも、会社の印象や業務への解像度の低さ」が否めないからだ。
「自称デキる男」であるはずの主人公・小野が、ベランダで『名前も知らない植物』を育てるのに何故かすぐに慣れてしまう理由。それが「売れるかもしれない」となんの確証があって判断したのか。なぜクローゼットに明らかに不審な荷物を詰め込まれても、一切の不信感を持たないのか。
これらをすべて「専務からの業務命令だから仕方ない」の一言で片付けてしまうのは、少々強引じゃないかい?
主人公である小野の行動や心理が、
「不自然」から「自然」、
「異常」から「日常」に変わっていくグラデーションの段階が、基本すべて飛躍しているのだ。
読者が最も共有したい、体験したいはずの「日常が徐々に崩壊していく滑らかなプロセス」がダイジェストで描かれてしまうため、まるで一本道のサウンドノベルゲームで会話をスキップして「物語を早く次の段階(ホラー展開)に進めたい意図」だけが見えてしまう。結果として、主人公以外のキャラクターも含め、登場人物たちの自立性が完全に失われてしまっているんだね。
怖い事実
怖いイベント
怖い関係
怖いものを並べ立てて、どれほど描写を文字で埋め尽くしてキャラを立たせても、怖くないものは怖くない。
精神崩壊をただの文字の羅列で表現する技法はweb小説特有の工夫だと言えるが、ホラーを書く上で「怖がらせたい!」というのがバレバレだ。
「危険な好奇心」のあの「呪殺」の文字列は、事前の丁寧な伏線のグラデーションがあるからこそ、初めて見た時にでゾクリとするんだよ。
――さあ、これで霧は晴れたかい?