160話、抜き取り廃棄分
「猿飛佐助って言わないんだ」
「有名過ぎて俺の好みじゃない」
「名前は?」
「高崎英二、享年32才平成21年だ。そっちは」
「遠野拓也、享年も過去も曖昧なんだ」
「やはり居たのか。驚かないところをみると知っていたのか」
「死に水って言っただろう。そんな言葉はこの世界では聞いたことがない。確かめるために殺さずにいたんだ。それに俺の知る限り、あんたで2人目だ」
「残念だよ、死ぬ間際に出会うとはな」
「命乞いをしないのか」
「すれば助けるのか? ホーキンを助けた結果が今の状況だ」
「えらく潔いな」
「まぁ未練は山程ある。あの親父が死ねば此の街ももう少しマシになると、日々死を願っていたさ。ところが死ぬときは道連れだ、阿呆らしくてな」
「殺せばよかったのに。日本の平成の知識が有れば簡単だろう」
「馬鹿で強欲な男の恐ろしさを知らないのか、ああいった男は用心深いんだよ。自分より優秀なら者は排除する、例え我が子でもな。馬鹿な振りイエスマンを何年してきたと思っている。漸く段取りが出来た時に今回の騒動だ」
愚痴り出したよ。
判らんでもないな、あの男が父親で伯爵なら、自分の領地では暴君だろう。
段取りが出来たと言ったが、何をするつもりだったんだろう。
「段取りって何をしたんだ」
「身辺警護の12人と執事を、俺に忠誠を誓う者と入れ替えたのさ。15年も掛かったよ」
「強欲な親に取って代わって何をするんだ」
「この領地だけでも、もう少し暮らしよい場所にしたかっただけさ」
「お前、助けてやっても良いが秘密は守れるか」
「守れる秘密ならな」
良いだろう、助かるために無条件にはいはい言う奴より、信用出来そうだ。
「簡単な事さ俺とシャーラの魔法の事を、他人に漏らさない、俺達を利用しないそれだけさ。何れ俺達の秘密は世間に漏れるが、それまでは静かに暮らしたいだけだよ」
「それだけか」
「もっと秘密はあるが、転移魔法と治癒魔法を自在に使うと知れたらどうなると思う」
「それ•••は、生と死を自由に出来るな。暗殺のやり放題だし気に入った人間だけを健康で長生きさせる。確かに秘密を知って手を伸ばしてくる奴等を、皆殺しにしたくなるな。脅されたり拷問されない限り、秘密を守ろう」
「良いだろう、命を助けるには条件が有る。お前が引き継ぐ領地の中では俺達の自由を認めろ。それとこの館に一部屋貰おうか」
「たったそれだけか」
「別に法を無視するつもりは無い。俺は長生きな部類に生まれたのさ安全なねぐらは幾らでも必要だからさ」
「俺がその気になれば簡単に暗殺出来るが」
「出来るさ、その時はお前も家族も領地も全て破滅の淵に立つことになる。試してみれば判るぞ」
「その条件に従おう。宜しくな•••名前なんだっけ」
「カイトだ、前世の名前は今日初めて言ったよ」
「それは私もだ」
「と、言う訳で殺すのは中止だシャーラ」
「判りましたカイト様。でも執事や護衛達は大丈夫なんですか」
「それは心配ないと思うぞ、全員私に忠誠を誓っているからな」
「お前の弟のブルバンには死んでもらうが」
「彼には父親殺しの罪で幽閉しようと思うが駄目か、ホーキンとエレカンは死んだんだろう」
「ああ、死んだよ。グルサスって奴もな」
「これで親父が死んでブルバンも死ねば流石に隠せなくなる。ブルバンには生きていてもらわねば不味い」
「いいだろう任せる」
「ブルバン聞いた通りだ、お前は父親殺しの罪で幽閉する。10〜15年辛抱すれば自由にしてやるが、嫌なら死ぬだけだ。どうする」
「本気かクリバン、お前の様な優柔不断な男に、ヘディサ家を治められるはずがない」
「こいつも馬鹿だな」
「自分が兄弟の中で1番頭が良いと、自惚れているからな」
「任せろ、直ぐに納得するさ」
ブルバンの首と手足にリングを装着すると、首のリングを軽く締める。
「何をする、外せ!」
足のリングをジワジワと締めつけていく<止めろ!><痛い、止めて、止めて下さい、ギャー>命令から懇願に変わり最後は悲鳴になった。
骨が折れ異様な方向に曲がる。
締め上げた輪を外してやると折れた足を見て泣いている。
執事と護衛騎士達はクリバンの後ろに控え、黙ってブルバンを見ている。
シャーラが側に行き<なーぉれっ>と一言呟く。
潰れた足があっという間に治っていくと、呆気にとられるブルバン。
反対の足の輪に熱く焼けた鉄のイメージを流し込む。
<何だ,熱い,熱くなっていく,熱,止めて,ギャー>
足から煙が出て肉の焼ける匂いが部屋に充満していく。
窓を開けるとシャーラが気づかれぬ様に空気を入れ替えている。
<止めて,お願いです,もう止めて下さい>
足の輪から熱を抜くと、シャーラが再び<なーぉれっ>と一言呟く。
「なぁブルバン、ホーキンやエレカンの様に、火炙りでこんがり焼かれる方が良いなら、火炙りにしてやるぞ。死ぬ寸前まで焼いたら、シャーラが治してくれるさ。そして再び火炙りだな、気が狂うまで何度でも続けるぞ」
ガックリしているブルバンを立たせ全員をヘディサ伯爵の執務室に連れて行きブルバンを父親殺しの犯人として縛り上げる。
埋めたヘディサ伯爵も執務室に運び首に縄を巻いておく、殺人現場の出来上がり。
対外的にはヘディサ伯爵は急死。
クリバンがケルーザン王家に届け出て、伯爵家を継ぐ手続きをすることで話しが纏まり、執事や護衛達が動き出す。
クリバンに請われて暫しマルバスに留まる事になった。
何から手を付けるかと問われ、冒険者ギルドで2割、街の市場や商店で3割の税を引き下げる事から始めればと助言する。
税を下げるが不正に税逃れをすれば財産没収の犯罪落ちにすると告げておけば良いと思うと話す。
街の出入りに3,000ダーラも取り、賄賂は当然だとも教えておく。
この世界では当たり前だが日本人の感覚がそれを許せない。
とは言いながら殺すことに罪悪感は無い、生死がかかる時に甘っちょろい事はしない。
公平な税と公正な法の執行が、民心安定と豊かになる基礎だろう。
後は教育と機会を与えれば優秀な奴が稼いでくれるさ、と宣っておく。
俺は万が一の時の逃げ込む場所を、一つでも多く確保しておきたいだけだから。
俺達はエレカンの部屋を貰い、奴の痕跡を消してのんびりしている。
その間にクリバンは伯爵の葬儀を簡単に済ませ、ブルバンの罪を裁いて館の一角に幽閉した。
執事のヘイノールはクリバンの補佐として中々優秀な様だ。
信頼のおける護衛を指揮官に据え、街の改革と警備兵達の不正を暴き締め上げ、綱紀粛正に成果をあげている。
「どうした伯爵様、お疲れの様だな」
「疲れもするさ、今迄は親父の言いなりになりながら、何とか生き延びてきた。今度は俺が伯爵家を運営しなければならないが、使える者が少なすぎる。優秀な者は排除されるか、兄の様に殺されたからな」
「中々シビアな人生ですな」
「伯爵家に生まれたと知った時には安堵したが、成長するにつれ厳しい現実を知ったらな。それに伯爵位を継いだら縁談の申込みが殺到している。今迄は下手な縁戚関係は身の破滅だから、親父の言いなりになって断れたが、此れからはそうもいかなくなった。そこへもってきて此れだ」
クリバンがヒラヒラと振る用紙は王家からの出頭要請だった。
正式に王家に対し伯爵位継承の御礼と、披露目が王都で待っている。
ハマワール侯爵様の陞爵祝の騒ぎを思い出し、思わず顔が歪む。
「そんなに嫌そうにしなくても、お前はお茶でも飲んで寛いていればいいだけだろう」
「ちょっと思い出してな、貴族達の集まる所、は苦手なんだ」
「面白そうだな、普通は貴族との接点は無いだろう」
シャーラがチラリと俺を見る。
「シャーラは訳を知ってそうだな。教えてくれよ」
「ヘディサ伯爵様、言葉が砕け過ぎですよ」
「この世界じゃこんな話し方を出来るのはお前達の以外にいないからな。ところでカイトは今幾つだ」
そう言われて歳の事を忘れていた。
ダルクに長く生きるって言われたし、元々エルフとドワーフの血も有るし。
指折り数えているとシャーラが教えてくれた。
「テイルドラゴンを獲って来てからだと5年、6年目になりますよ」
「すると37でシャーラは31か」
「本当かよ•••人族以外に何の血が混じっているんだ」
「エルフとドワーフだ、俺は特別成長が遅いらしい」
「やれやれ未だ若いと思ってタメ口きいていたがおっさんかよ」
「そういうあんたは幾つだ、結構なおっさんに見えるが」
「俺はドワーフ族100%だから52才だ」
「何だ爺さんかよ」
「15才違いで爺さんは無いだろう」
「ドワーフ族ってどれくらいの寿命何だ」
「個人差はあるが200年前後だな」
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話しが広がりすぎ、収集がつかなくなりそうなので破棄しました。m(_ _)m