• 現代ファンタジー

『蜜蜂と遠雷』

 直木賞と本屋大賞を取る前に読んで、とったことに喜び、映画化を楽しみにしていた。恩田陸ならではの文章のなめらかさ、ふいに光景が眼前に立ち上がるような描写力とリズム、音楽が聞こえてくる文章力。題材といい登場人物たちの高潔さといい、すべてが良かった。
 特に感情移入できたのは明石で、これは創作に携わる兼業の人すべてに見覚えのある感情ではないだろうか。生活に追われて創造的行為ができない苦しみ。専業でない自分への劣等感と励まし、自負。『六番目の小夜子』から注目していて、ずっとたびたび読み続けてきた作家さんだけに、いま、小説家として大成した恩田さんの歩みに惜しみない賞賛を送りたい。
 かたや、ひととおりの人生の夢をかなえて、まだまだ忙しい真っ最中でも、なお創作を諦められない自分にも、「続けていいんだなって思いました」という、映画のなかの明石の言葉をおくりたい。

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