明鏡止水は思い出に生きています。
人にしてもらったことを糧に、日々を優しく生きられる。人に厳しくしたことは、恐ろしい暴力を振るったのは、自閉症のきょうだいに憤りを感じていた、家族のパワーバランスで辛かった時期です。
家庭にも地獄があります。
もしもここで
「幸い、我が家は地獄にずっと堕ちることはありませんでした」
と書けば、顔を真顔にして白けた目をしてさっさと「不幸せ」を眺めに行く方もいるかも知れません。
わたしが家族からの重圧に泣いていた時、家族がみんな不幸だと泣いていた時、母は言いました。
「わたしは不幸だとは思わない」
……あの時は固まりました。何年か、あるいは一瞬で。
裏切られた。
と思いました。
自分がこんなに苦しい思いをして、みんなが泣いて苦しんでいるのを見ているのに、わたしは追い詰められているのに。
それを、不幸せではないという?
人は思い出で生きています。
治療のための目薬も!歯の矯正も!
ぜんぶ裏切られてきた!
と叫ぶ母。障害を持って生まれたきょうだい。夫婦喧嘩を止めに入る果敢な姉妹。
わたしは、〝止まる〟ことにしました。目の前で起こっていることは〝人形〟にはわかりません。
それでも、いつか。この日々を覚えていれば、自分を助けることができる、はやく家を出るんだ。
わたしは、家を数ヶ月しか出ませんでした。
社会は、会社は、優しい人もいるけれど、誰もが教員免許を取得できるほど正義感や誠実さを併せ持ち、更に人の心をわかり、いじめなんて毛ほどもせず、あらゆるハラスメントを犯さない。
そんな人たちで溢れているわけではないからです。
人は人間関係で悩み、労働の過酷さで悩み、家庭での不和や環境で悩みます。潰れます。逃げ出す若者は強い。戦う若者よ、すり減らないで。
いつも思う。明日は我が身。
https://kakuyomu.jp/works/16817330653663874160/episodes/16817330666110166214