お読みいただきありがとうございます。
カクヨムさんに上げていなかった作品「未来で冷遇妃になるはずなのに、なんだか様子がおかしいのですが…」のご紹介ついでに、1本SSをアップしますので、週末のお供にでもしてください(#^^#)
※SSは1巻の終盤のお話なので、ネタバレなどが苦手な方は本編をお読みになってから読むことをおすすめします。
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どうぞよろしくお願いいたします。
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SSタイトル:ラッキーガール
「そういやあ、カジノには行かなかったな」
あと三日もすれば、一か月のクルーズを終えて船がグリドール国ローアン港に到着するという頃になって、モルト伯爵セドックがそんなことを言った。
ラファエルたちとレストランで昼食を取っていたローズはきょとんとして、隣に座っているミラに視線を向ける。
「カジノってなに?」
「カジノと言うのは、お金をかけてカードゲームやサイコロゲームをするところのことですわ」
「ミラ嬢、確かにそうなんだけど、その説明はあまりに夢がなさすぎるよ」
セドックがおどけたように肩をすくめて、それから悪戯を思いついた子供のような顔をした。
「殿下、せっかくだから行ってみないか? ほら、ローズ王女も一生に一度くらいカジノを経験してもいいだろう?」
「王族が賭博に興じていると、妙な噂を立てられかねないぞ」
「大丈夫だって。ウィッグかぶればわかんないから。ほら、ローズ王女も行きたいよな?」
「え、ええっと……」
「おい、ローズを巻き込むな」
「そうは言うが、こんな機会そう簡単にめぐってこないぞ」
カジノへ行く機会と言うのは、ラファエルであろうとも早々ないことらしい。ラファエルでそれなら、ローズにはきっと一生めぐってこない機会だろう。どんな場所かは知らないが、ちょっと行ってみたい。
ローズがそわそわしはじめると、ラファエルがその様子に気づいたようで小さく苦笑した。
「仕方がない。少しだけだぞ」
「そう来なくっちゃな!」
セドックがぐっと拳を握りしめる。
昼食を終えて、ミラとともに部屋に戻ったローズは、ミラがどこからか仕入れてきたピンク色のウィッグをかぶせられた。ローズの顔は知れ渡っていないから、髪色を変えるだけで大丈夫だそうだ。
ラファエルはローズと最初に会った日にかぶっていた赤毛のウィッグを、セドックはなにも変装していない。
さあ行こうとセドックの先導でカジノルームへ向かうと、そこはまるで別世界のようだった。
喧噪の渦に飲まれてポカンとしているローズの手を、ラファエルがそっと引き寄せる。
「こっちへ。あっちにルーレットがある。数字を当てる簡単なゲームだ。行こう」
ルーレットのテーブルに向かうと、セドックがカジノのコインを渡してくる。
ラファエルが訊ねた。
「好きな数字は?」
「ええっと……じゃあ、七で」
ラファエルが七の数字にコインを置く。
「ストレートで行くつもりか? さすがに無茶だろ。俺はコーナーだな」
セドックがそう言って、四つの数字の真ん中にコインを置いた。
コーナーとは四つの数字のどれかにボールが止まれば配当がもらえるのだと言う。ストレートとはストレートアップのことで、一つの数字をピンポイントで狙う分、配当が一番高くなるそうだ。
テーブルにいた全員が賭け終わるとボールが投げられる。
ころころとボールが転がり、七の数字のところで止まった。
わっと周囲が沸いて、ローズの前にコインが積まれる。目をぱちくりさせていると、ラファエルが次の数字を訊いてきた。
「えっと、三十一」
ラファエルがまたしても三十一にピンポイントで賭ける。
するとまた三十一にボールが止まって、さっきより大きな歓声が沸いた。
次に十七を選べば十七に、三を選べば三にボールが止まる。
「おいおい、まじかよ……」
ローズの目の前にこんもりと山になったコインを見つつ、セドックがあんぐりと口を開けた。
そんなセドックに、ラファエルが勝ち誇ったように笑う。
「ローズは最高の幸運の女神だな」
その日、最後までツキに恵まれて数字を当て続けたローズは、のちにプリンセス・レア号最強のラッキーガールと呼ばれることになるのだが、当の本人がそれを知るのは、もっとずっと後のお話。