「くっそー、あいつらめ!」
思い出すだけでムカムカする。
思わず強い言葉が出てしまうのも仕方のない事だ。
正直、自分以外の誰かが自分と同じ能力を持っていたら。
俺もそっち側に回っていたと思う。
「そもそもなんだよ、ミント栽培って!」
俺、加納楽の授かった能力はミントを地植えするだけのものだった。
だから、ちょっとしょぼい能力さえもマシに見えて、挙げ句の果てに国外追放処分を受ける。
弱者に用はない。つまりはそういう事なのだ。
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ラク・カノウ
LV:1
異能:ミント栽培
繁殖力:1
吸収力:1
根付き:1
特殊効果:なし
メッセージ:0件
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どうみてもしょぼい能力。
まさかステータス内容すら別物とは思いもしないだろう。
何? 俺のステータスまでミントに侵食されてるんじゃねぇかって?
うるせーよ、叫び出したい気持ちでいっぱいだよこっちだって。
それにしても、これからどうしていけばいいんだろうな?
着の身着のまま、右も左も分からない場所での生活。
それを言ったら王宮で暮らしてるクラスメイトも一緒か。
俺というカースト最下位を追い出した状態で、今度は誰がターゲットにされるのやら。
俺はこの時気づかなかった。
俺の歩いた後に、瑞々しいミントが咲き乱れていることを。
「んあ?」
やたらとうるさい耳鳴りにて立ち止まる。
せっかく風景を楽しんでいたのに水を差すとは無粋な耳鳴りだ。
さっきから何かのメッセージがずっと鳴り響いている。
しかし周囲の人間には聞こえないのか、俺だけが慌てふためいていた。
原因があるとすれば俺自身か。
すぐに町の路地裏に入り込み、ステータスを確認する。
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ラク・カノウ
LV:100
異能:ミント森林
繁殖力:100
吸収力:100
根付き:100
特殊効果:なし
<スキルの種:30個>
ーー
<称号>
スグホ=ロブ王国スの支配者
スコシ=モッタ公国の支配者
ヒザニ=ヤ商業国の支配者
オス=ワリ獣人国の支配者
メッセージ:1000件
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レベルがめちゃくちゃ上がってた!
一体何があったし!
俺は恐る恐るメッセージをタップした。
すると出るわ出るわ聞き逃したログが。
【ミントがスグホ・ロブ王国に根を張りました】
【ミントがスグホ・ロブ王国の魔力を吸収してます】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベル分各ステータスが上昇しました】
【スキルの種を入手しました】
【ミントがスグホ・ロブ王国の薬草園に侵食しました】
【ミントにヒール草の薬効が追加されました】
【ミントにマナヒール草の薬効が追加されました】
【ミントにモウドック草の薬効が追加されました】
【ミントにパラライ草の薬効が追加されました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベル分各ステータスが上昇しました】
【スキルの種を入手しました】
【ミントがスグホ・ロブ王国の宝物庫に侵食しました】
【ミントにゴールドの効能が宿りました】
【ミントにシルバーの効能が宿りました】
【ミントにエメラルドの効能がつきました】
【ミントにミスリルの効能がつきました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが上がりました】
【レベルが限界突破しました】
【ミント栽培が特殊進化します】
【成功!】
【異能:ミント栽培がミント農園に進化しました】
・
・
・
「なんじゃ、こりゃあ」
メッセージの数も見ない間に軒並み増えていくし、スキルがバンバン進化していって、自分でも何が何だかわからない。
本当に今日の今日だぞ?
追放されたのは。
たったの一回、ミントを地植えしただけだ。
それだけで、この称号が本当なら召喚国が滅んだ事になる。
マジかよ。
いや、多分王国全土にミントが生えてるとかそういう話だろ?
このステータスをどこまで信じていいものやら。
ただ、結構いろんな場所でミントを見るんだよな。
初めからこの大陸にあったの? って位頻繁に見かけるようにはなったけど、それで俺が強くなったわけじゃないしな。
「たのもー」
「あら、見ない顔ね」
「実はかくかくしかじかで無一文な上に天涯孤独の身になってしまってね。なんか働き口とかないですか?」
街のそれなりに人だかりの多い食堂で、なんとなく物々しい格好のお姉さんに話しかける。冒険者だろう。
周囲にいる髭面のおっさんには怖くて話しかけられなかった。
チキンな俺を笑うがいい。
初見で見ない顔と判断できるくらいには、この辺の事情に詳しいらしく、俺の見目が珍しいのかノリに合わせてくれた。良い人だ。
「それって例の国主催の勇者召喚ってやつ?」
「あっ、民衆に知られるくらい有名な行事なんですか?」
「そうね、今回はどれくらい役に立ってるかって貴族の間で賭け事が起きてるくらいよ。で、君はその中でも特に秀でたものがなく、追い出されたってクチ?」
ぐ、なんてひどい言葉を吐きかけるんだこの人は。
事実なだけに二の句が告げない。
「無言は肯定と受け取るわよ?」
「全くもってその通りです。あ、お姉様靴でも舐めましょうか?」
その場に跪き、頭を床に擦り付けながら謙った態度をとる。
するとお姉さんは俺の身代わりの早さに面くらった後、「あはははは!」と大袈裟に笑い始めた。
「あーおかしい。何もそこまで謙らなくたっていいじゃないの」
「自分の無能っぷりに嫌気が明日もので。信用していた仲間から手のひら返されてみてくださいよ、人間不信になりますって。もう俺にはこれに縋るしかないんです。助けて」
「そう自暴自棄になりなさんな。でもこうやって関わった以上、無視もできないね。良いよ、あんたのことはしばらくうちのチームで面倒見る」
やったぁ!
「とはいえ、扱いは相当荒いものになるよ? このかっこうを見りゃわかると思うが、うちも働けない奴に食わせる余裕はなくてね。そうだ、あんた名前は?」
「ラクっす」
「ラクッス?」
「あー、名前はラクだけです、すんません、はい」
「オッケーラック」
「だからラクですってば」
「そうなの? でも今までのあんたは必要ないわ。過去は捨てなさい。ここでは今を生きるのがやっとでしょ? 昔がどうだったとか、現段階ではなんの慰みにもならないわ。それに、それを尊重してくれる仲間ももういないでしょ」
「うっす」
お姉さんにも悲しい過去があったのだろう。
それ以上、言い訳を重ねるのはやめた。
お姉さんはローズと名乗った。
他にも紹介されたが、お姉さんの名前を覚えるだけで俺の記憶領域はいっぱいになった。
正直、クラスごと召喚されて、そのまま捨てられただけでお腹いっぱいだったのだ。
元の世界に帰るための方法も知りたいし、ソシャゲの続きもやりたい。
見たい映画だって控えてた。
そのためにも俺が強くなる必要があった。
俺を置いてけぼりにして、ミントだけがやたら成長してる現実に目を背けながら。
「それに、お国のやり方にも頭きてるのよね。知ってる? ラック達を召喚するのに、アタシたちの血税が大量に消費されてるってことを」
「税金、重いんすか?」
「稼ぎの9割よ。アタシたちに死ねって言ってるのよ、この国の貴族どもは」
「うへー」
「それで、ラックの出番よ」
「俺っすか?」
「そう、国に不要と言われたあなたが大活躍して、国に見る目がなかったと思わせる。それって最高にクールじゃない?」
「俺にそんな力があるんすかね?」
「死に物狂いで強くなれ。それまで面倒見てあげるから」
「うっす、頑張るっす」
こうして俺は旅の冒険者ローズ率いるパーティ『アレキサンドライト』の荷物持ちとしての人生がスタートした。
そんなやりとりがあった裏で、俺のミントがいろんな国に侵食しまくってたけど、気にしないことにする。
メッセージが3000件溜まってるけど、知ーらね。
実際になんも知らないからな。