今日は十五歳の誕生日、つまりスキルを授かる日だ。仕事が終わったら一人で酒場に行って、心静かに女神の訪れを待とう。
ぼくは、そわそわした気分でスラム街にやって来た。
広場には見慣れないエルフの女性が、一人でポツンと立っていた。まわりの人々は胡散臭そうな目で彼女を見ている。
これは危ないと思って、急いで駆け寄った。
「ひょっとして迷子ですか? ここはスラムですから、エルフの一人歩きは昼間でも危険ですよ」
「いえ、わたしは旅の占い師なんです。旅費が底をついたので、芸人ギルドで営業できる場所を聞いたら、この広場を紹介されて……」
「ははあ、おおかた猫獣人の受付嬢に聞いたんでしょ。あの人はいい加減だからなあ」
「はい、猫獣人の方でした。それで何かあったら、変な弦楽器を持った吟遊詩人を頼れと言われたんです。あっ、そのアコギは……あなたがヒューさんでしたか」
「はあ、ぼくがヒューですけど……あこぎって何です? 六弦琴のこと?」
「い、いえ、何でもないです」
エルフの女性は急にあたふたして首をぶんぶん振った。なんだか変な人だなあ。
ぼくは彼女の相手をしつつも周囲を警戒していた。悪ガキどもがニヤニヤしながらこちらを見ている。
さりげなく足元に転がっていた棒切れを拾った瞬間、石がこちらに飛んできた。
「危ない!」
素早くエルフの前に移動して石を叩き落とす。
悪ガキどもは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
「ありがとうございます。いやー大した腕前ですねえ」
「じつは親父が上級剣士の称号持ちでして、飛んでくる石を木剣で防ぐ訓練は、実家の庭でさんざんやらされたんです」
「でも、気を使わなくて大丈夫ですよ。わたしは絶対防御のスキルを持ってるので、物理攻撃は効かないんです。試しに、その棒を叩きつけてください」
「えっ、絶対防御?」
半信半疑でエルフの肩に棒切れを打ち込むと、岩を叩くような感触がして、手のひらがジーンと痺れた。
もちろん彼女は涼しい顔をしている。
「呆れたなあ! そんな凄いスキルを持ってるなら、冒険者ギルドに行ったほうが、よっぽど稼げるじゃないですか」
「えー、だってわたし、占い師なんだもん」
「ここでは仕事にならないって分かったでしょ。悪いことは言わないから冒険者ギルドに行きなさい。旅費を稼ぐための一時的な手段だと割り切ればいいんです」
ぼくは不満そうなエルフを引きずるようにして広場を出た。
「わたしの “占いたい欲 ” はどうしてくれるんですか」
「文無しのくせに贅沢を言わない!」
「だったらヒューさんを占わせてください。そうしたら大人しく冒険者ギルドに行ってあげます」
「はあ? 何でそうなるんだよ」
「わたしに冒険者ギルドに行ってほしいんでしょ? そのためには観念して占われることです。大丈夫、助けてくれた恩があるので、特別に無償で占ってあげますよ」
「くそっ、仕方ない……」
なんだか支離滅裂なことを言われてる気がする。しかし、このときのぼくは彼女の催眠術にかかっていたようだ。
その占いとやらをしてもらうため、目についた茶店に入った……
〇
琴葉 刀火さんがカクヨムにて連載している書評エッセイに、拙作「異世界でわかる文学史」が取り上げられました!
このエッセイは「もしもあなたの主人公が占い師と出会ったら?」というコンセプトで作品を紹介するという凄く面白いこころみです。
あなたの小説の主人公、占ってみた! ~波乱万丈です! タロットで紹介する主人公とその物語~
https://kakuyomu.jp/works/16818093077936178172
↑ こちらの概要欄を見ていただければ、コンセプトの詳細が分かると思います。
↓ 拙作のページはこちら。
ヒューロッド・トラーソン様の占い結果/「異世界でわかる文学史~村を追放された吟遊詩人は謎スキル「文学全集」で成り上がる」より
https://kakuyomu.jp/works/16818093077936178172/episodes/2912051601022778883
ちょうど女神からスキルを授かる前後の時期に占い師と出会ったら……という仮定のもとに書かれております。
そしてこれを読んでるうちに、創作意欲がムクムクと湧き上がってきました。
偶然にも琴葉 刀火のトーカという読みは、作品世界においては女性エルフの名前なんですね。
これを利用しない手はないという事で、上の閑話のようになったわけです。
では後半に続く。
〇
……ふと、若いころに出会った奇妙な占い師のことを思い出した。不思議なことに今まですっかり忘れていたのだ。
まあ、スキルを授かってからは、次から次へと騒動に巻き込まれて休む間もない生活だったからな。
それにしても、あのとき彼女が使っていた美しい絵の描かれた札は何だったのだろう。あんなものを使う占い師には、後にも先にもお目にかかったことがない。
ひょっとして、あれは異世界のタロット・カードじゃないだろうか。
もし仮にタロット・カードだとすると、あのエルフは異世界からの転生者だったのかもしれない。
そして彼女と出会ったのがスキルを授かった後だったとしたら、異世界の話ができる得がたい友人となったかもしれない。
いまさら考えても仕方のないことだが。
「師匠、こんなところに居たんですか。なんで大道具のベッドで寝てるんですか」
新入りの弟子が倉庫に入ってきた。
「まあゲン担ぎみたいなもんだ。若いころ世話になった大師匠がいてな、大道具のベッドで寝るのが好きな人だったんだ」
「明日は太陽座の劇場開きなんですから、休むならちゃんとしたベッドで休んでください」
弟子に抱えられるようにして倉庫を後にした。
太陽座というのは、ぼくがオーナーとなって建設した劇場である。千人もの客を収容可能な巨大さを誇る。
「さて、明日の演目は何にしよう」
ぼくは「文学全集」の目次を開いてスクロールした。
あの女性エルフにあやかって女流作家から選んでみるか。金原ひとみと綿矢りさの二本立てなんてどうだろう。