※メモ帳に書いて一人で楽しんでいる話をここに。
二番目の神様=愛している人から一生二番目の人と思われる可哀想な神様です。
生涯「愛してる」や「好き」と言われません。言わぬまま彼女が亡くなってしまうからです。手元の小ネタは、生前のヒロインが神様を想って悲しくなる、或いはこっそり愛してると呟くシーンばかりです。なのでメリバかもしれません。
神様ではなくても二番目になる設定が好きです。
以下、季神に触れない事に塩ヒロインがショックを受け、柄にもなく焦燥する話。
漫画は難しいです。
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僕達は一旦家に戻ると服に着替えた。彼女の服は寝巻きしかなかったので簡単な和装だ。帯の締め方が大分上手くなってきたので、とても様になっている。
僕は下界に合う洋装だ。
「じゃあ行くよ」
僕は彼女を抱き上げると、物凄い速さで自分の社に降り立った。
「神様に抱き着かないと振り落とされる所だわ」
ふぅと彼女は暗い社の中をぺたぺた触ると、戸を見つけて外に降りた。
「ここがあなたの社なの」
「まぁね」
暗くて狭い社も、彼女と一緒なら嫌な気持ちも半減する。
「確か今は七時だわ。まだ街も明るいから人が割と多いかもね」
「……」
この綺麗な妻を他の奴に見せたくないな……。もう一瞬でも天界に帰りたい気持ちになる。
「神様とデートするだけよ、ほら」
と、僕の手を繋ごうとした彼女の手は空を掴んだ。
「……触れないわ」
「最初に言っただろう。下界では神に直接触れないんだよ。まぁ、これも神だと言う証拠だね」
「……」
彼女が急に黙ったので、僕はおかしな事でも言ったかと小さな肩を抱いた。
「大丈夫かい?」
「あ……今度は触れるわ」
「服や物越しなら触れるよ」
「そう」
彼女は僕の腕にぎゅっと縋り付く。普段はしない行動にどきっとしてしまう。下界は心細いのだろうか。
「当たり前だけど、自宅や知り合いから離れたい」
「わかった。じゃあ、どっちの方面に行く?」
「あの奥がキラキラ光った繁華街。うちは田舎だから真逆の方向よ」
「承知した」
僕は彼女を抱いたまま風に身を運ばれ、繁華街の裏通りに降りた。
「皆に空飛ぶ姿を見られるんじゃない?」
「身を消すようにしたから大丈夫だよ」
「神様って万能なのね」
僕は身を消すのを解き、彼女と明るい大通りを見た。車が走り、楽しそうに笑い合う人々が溢れている。天界とは大違いだ。
「……着物に下界は合わないわね」
彼女は自分の着ている、藍色の着物に困った顔をしている。
「歩きづらい?」
「まぁ、多少は」
確かに僕は洋装で上手く下界に溶け込んでいるけど、彼女の場合は着物を着ている人がいないので、ちょっと異端かもしれない。
「じゃあ、買いに行こう」
「服を? 天界のお金しか無いわ」
「仕事で下界に降りるんだ。こっちのお金も多少持っているよ」
「ハァ、あなたってぬかりないわね」
褒められているのか良く分からない台詞を吐かれた。
「君はどんな場所で服を買っていたんだい?」
「地元の商店街よ。特に好みはないわ」
「そうか……。じゃあ君の年頃に合う店に行くのはどうかい?」
「そうね。歩いてたらどこかにブチ当たるでしょう」
また綺麗な顔に合わない言葉使いをする。でも凄く彼女らしいから窘めはしない。
さて、僕達は繁華街に出て辺りを見回したが……。
「やっぱり着物だと注目されるわね」
周りの視線が一気に僕らに注がれた。
ひそひそと声がする。何だか天界の小姓や侍女の態度のようだ……。
「店が閉まっちゃうわ。早く行きましょう」
彼女は僕の腕を組んでせき立てた。
正直凄く嬉しい……。天界では一切こんな事してくれないよ。
腕を組むと、ますます視線が集まるけど、困惑より誇らしい気持ちになる。
「あのお店、私と年齢が近い子が沢山いるわ」
彼女が指をさした先に、なるほど。確かに若人が多いな。ただ、女性が多いから僕は入りにくい。
「お金を渡すから、好きなの選んで行っておいで」
「あら、あなた来ないの?」
「だ、だって男がいないぞ。それに神だと知られたら困る」
「手なんかポケットに突っ込んどきなさいよ。カップルで来る客もいるんだから構わないわよ」
「……」
彼女も大好きな奴と、こうやって買い物をしたのだろうか。そんなことを考えると気持ちが落ちてしまう……。
「そんなの当然でしょう。買い物くらい行ったわよ」
「何も言ってないぞ……」
「顔に書いてあるもの」
「……」
「それより何にしようかしら。神様は何がいい?」
身体に服を合わせ、僕に見せる。
正直、彼女ならどんな服だって似合うから選べないよ……。
「君の好きな服にしていいよ」
「なんかいまいちなノリね。彼氏のことを気にしてるの?」
彼女はカシャンとハンガーにかかった服をかけた。
「ち、違うよ! 君は何でも似合うから選べないだけだ!」
そう告げた瞬間、ざわっと女性が僕を見る。
「……あなたって恥ずかしい人ね」
「正直に言っただけだよ!」
今度は、心中したいと騒いだ元嫁と同じ黄色い声が上がった。
「わかったわ。とりあえず、その辺のを適当に買うから外で待ってなさい」
と、僕はポイッと店から追い出されてしまった。何が癇に障ったんだろう?
何もする事がなく突っ立っていると、数人の女性に声を掛けられた。
「あの、良かったら写真撮っていいですか?!」
「……」
何で下界の人間は僕の写真を撮りたがるんだろう。知らない男を撮ったって何の利にもならないだろうに。
「僕は撮られるのが好きじゃないんだ。代わりに君達を撮るよ」
「えっ、お願いします!」
きゃあきゃあと楽しそうに携帯という物を渡す。
「このボタン押せば撮れるので」
「はぁ」
僕は言われた通り、女の子達を携帯で撮った。
「はい、どうぞ」
女の子達は嬉しそうに携帯を受け取った。物を介してるから透けの心配はない。
「ありがとうございます! あの、これからコンパがあるんですが人数足りないんです」
「お暇なら来ませんか?!」
「お暇じゃないの」
艶のある声が背後からすると、彼女がにこりと微笑んだ。
「あ、あっ、すみません! 写真ありがとうございましたー!」
女の子達は慌てると、足早に去って行った。惜しいだの、軟派失敗だのと小突いている。
「何故下界の女性は僕と話したがるんだ」
「……あなたって鈍感ね……」
話し掛けながら振り向くと、そこには女神がいた。
葉の色より薄い緑の服に、白いカーディガンを羽織り、スラッとした素足が膝丈から伸びて白い靴を履いている。
「素敵だ」
「それは良かったわ。やっぱり堅苦しい服よりワンピースの方がすぐ着れていいわね」
彼女は着物の入った紙袋のバッグを片手に伸びをした。
ああ、今すぐ口付けしたいよ。でも下界では触れられない……。
仕方ないので、腰を寄せて胸に抱き締めた。
「早く帰りたい。君を抱きたいよ」
「うーん、もうちょっといたいわ」
残酷な言葉に唖然とする。
「今日は契らないのかい?!」
足早に歩を進める彼女に声を掛ける。
「そういうのはデートの最後にするのよ」
さっきから男性達がチラチラと彼女を見ている。そりゃこんなに綺麗なんだから誰だって気になるだろ。
彼女はハンバーガーが食べたいわと異国の食べ物に舌鼓をし、意味もなく噴水の広場を歩き、店の外から商品を覗いたりと、初めて来た場所だからか珍しくはしゃいでいる。
「都会って何でもあるのね」
「うん……。でも緑がなくて寂しいよ」
「下界にも都合があるのよ」
「ふぅん……」
しょんぼりしている僕に気付いた彼女は、慰めようとしたのか頬に触れ──られなかった。
「……本当に触れないのね」
びっくりしたのか彼女は手を引っ込めた。
「そうだよ。神は幻だから」
「……帰りましょう」
「もう、いいの?」
「飽きたのよ。さあ、神様、私を天界に連れてって」
「う、うん」
急な方向転換に僕は姿を消し、慌てて彼女を抱き上げた。
「早く、早く」
「早く飛んでるよ?!」
やたらと急き立てるので、蔦を使って社へと身を吹っ飛ばした。
社から天界に這い出でると、僕達は馴染みの青と緑の靄に包まれる。
「着い……」
彼女は僕の頬に手を当てると、突然口付けをしてきた。嬉しいけど一応公道でもあるので、続きは家でと促して手を繋いで引っ張った。
「繋げるわね」
「そりゃ天界だからさ」
「じゃあ家でも繋げばいいわ」
何時もと違う変わった物言いに戸惑いながら、靄を消して僕の家を出した。