『孤児院の魔法少女は、本当の名前を知らない
〜未明のルミナリア〜』
第37話「次の今日」を公開しました。
第36話で帳ソラの物語はひとつの結着を迎えましたが、
今回は、その次の朝から始まります。
大きな奇跡の後に来る、
普通の一日。
そして、普通では終わらない一日です。
※以下、第37話の内容に触れます。
時計台の針は、
誰かを置き去りにすることなく進んでいました。
出席帳の新しい頁には、
帳ソラ。
今日、ここにいる。
という、ソラ自身が書いた文字が残っています。
ソラはその名前の横に、
小さな丸を描きます。
誰かに存在を認めてもらうための印ではありません。
「今日もいるって、自分で見た印」
自分が今日ここにいることを、
自分で確かめるための印です。
そしてソラは、
悠太から借りていた短い鉛筆を返します。
その代わりに選んだのは、
少し塗装の剥がれた、
青灰色の鉛筆でした。
新品ではありません。
一番長い鉛筆でもありません。
それでもソラは言います。
「僕も新しくないから」
「でも、今日から使える」
過去を消して、
新しい自分になるのではない。
傷ついた時間も、
仮の場所にいた事実も残したまま。
今日から使っていけるものを、
自分で選ぶ。
ソラの新しい日々を、
そんな鉛筆に重ねました。
食堂では、
ヨルの「あかり」と、
ソラの「帳ソラ」が並びます。
ヨルは名前を受け取らず、
なくさないために棚へ置いた。
ソラは預かりの名だった「帳」を、
自分の姓として選び直した。
二人の答えは違います。
けれど、どちらも
他人に勝手に決められた答えではありません。
受け取らない自由と。
引き受け直す自由。
同じ名前の物語でも、
同じ結末にしなくていい。
今回は、その違いを
二人の短いやり取りで描きました。
また、年少の子に、
「明日も絵本読んで!」
と頼まれたソラは、
「明日のことは、明日決める」
と答えます。
それでも、
「今日は読む?」
と聞かれれば、
「今日は読む」
と答えられる。
未来を約束しなければ、
今を大切にできないわけではない。
「また明日」と言えるようになったからこそ、
毎回言わなくてもいい。
ソラは少しずつ、
言葉を自分のものとして使い始めています。
ここまでが、
帳ソラ編の静かな余韻です。
けれど、その食卓で。
ねむの夢見のランタンの火が、
朝になっても消えていないことが分かります。
ねむはほとんど眠っていません。
夢を見るのが怖いからです。
普段、ねむのランタンは
誰かの夢へ道を作ります。
けれど、ねむ自身が眠ると、
その道は内側へ戻ってくる。
ねむは言います。
「夢見は、他人の夢ほどよく見える」
「自分の夢は、目が近すぎて見えない」
他人の夢へ入る時、
ねむはずっと同意の境界を守ってきました。
勝手に見ない。
見えてしまっても、
本人が「まだ」と言ったことを渡さない。
そんなねむが今回、
自分自身の夢を前にします。
ランタンの火を消そうとすると、
火は逆に明るくなります。
壁には、
ねむの隣へもう一人の影が映ります。
その影は、
ねむと同じ姿勢で座り。
ねむが眠ると、
一人だけ立ち上がります。
ましろたちは、
ねむの夢へ勝手に入りません。
ねむ自身が、
助けを求める条件を決めます。
まず三回呼ぶ。
返事がなければ、
ヨルに鐘を鳴らしてもらう。
それでも戻らなければ、
その時は来てほしい。
助ける側の判断ではなく、
助けられる側が先に境界を決める。
ねむらしい約束です。
影のねむは、
火の消えたもう一つのランタンを持ち。
壁の中に現れた扉へ向かいます。
扉の向こうから聞こえる、
三回のノック。
ましろは約束どおり、
ねむの名前を呼びます。
けれど、
三回目を呼ぶ前に。
眠っているねむが言います。
「まだ」
ましろは止まります。
夢へ入らない。
鐘も鳴らさない。
ねむが「まだ」と言ったから。
夢を見ているのか。
それとも、
夢の側から見られているのか。
ランタンの火は、
朝になっても消えません。
白くなりかけた火の奥で。
眠っているはずのねむだけが、
目を開けていました。
第37話「次の今日」。
ソラの新しい朝と、
ねむの夢の始まりを、
読んでいただけたら嬉しいです。