『孤児院の魔法少女は、本当の名前を知らない
〜未明のルミナリア〜』
第34話「また明日を言った子」を公開しました。
今回は、帳ソラの「また明日」をめぐる物語が、
大きく動く回です。
※以下、第34話の内容に触れます。
冒頭で、ソラはもう一度、
「また明日」
という言葉を向けられます。
少し前までなら、その言葉を受けた瞬間に、
ソラの輪郭は薄くなっていました。
「また明日」は、優しい約束であると同時に、
届かなければソラを落とす崖でもあったからです。
けれど今回は、ソラ自身が答えます。
「うん。でも、今日はここにいる」
明日を拒絶したわけではありません。
明日へ自分の存在を預けずに、
まず今日に立つ。
第32話で作った「今日、ここにいる」が、
誰かに支えてもらうための言葉から、
ソラ自身が使える言葉へ変わり始めました。
そして今回も、
昨日へ入る範囲を決めるのはソラです。
誰と行くか。
誰に外側を守ってもらうか。
どこまで見るか。
どこから先は、まだ見ないか。
ヨルには戻る場所を守ってもらい、
悠太には今日を描いてもらい、
澄には出席帳を閉じないよう頼む。
助けられる側だったソラが、
自分を守るための布陣を、
自分の言葉で決めるようになりました。
青い帳の向こう側。
そこには、絵本を開かずに
ソラを待っている子がいました。
ソラは忘れられていたのではありません。
誰かが明日の側で、
何度も扉を見ながら、
ソラが来るのを待っていた。
そして、その子の正体は――
幼い頃の星守澄でした。
現在の澄には、その記憶がありません。
けれど幼い澄は、
約束の明日の中で、まだ待ち続けていました。
一緒に読むと決めた絵本を開かずに。
ソラが来るかもしれない席を残したまま。
ねむは、前の回ですでに
その光景の一部を見ていました。
それでも、ソラが「まだ見ない」と決めたため、
内容を話しませんでした。
「言ってほしかった気もする」
「言わないでくれてよかった気もする」
「どっちか、分からない」
ソラは、ねむの判断を簡単に正しかったことにはしません。
ねむも、きれいな正解を求めません。
同意を守ることは正しくても、
正しさが痛みを消してくれるわけではない。
今回、大切にしたかった場面の一つです。
ソラは、幼い澄のいる明日へ
身体ごと渡ることは選びません。
「今日は、ここにいる」
そのうえで、
「僕の声だけ、届けたい」
と決めます。
名前を呼べば、名前の道が開いてしまう。
だから、澄の名を口にしかけて止める。
そして最後に選んだのは、
二人をつないでいた約束の言葉でした。
「また明日」
昨日はソラを留めた言葉。
今回は、遠い明日へ声を届けるための言葉になります。
けれど、声の道が開いた瞬間。
燐灯堂も、その隙間を見つけます。
「期限を過ぎた約束」
「明日未着の名」
「査定対象」
ソラの今日のしおりは焦げ、
声の道は値札の紐に狙われます。
無傷では守れない。
それでもソラは、
声が届いたことを確認してから、
「閉じて」
と自分で決めます。
待つ相手へ声を渡すこと。
今日へ戻ること。
どちらも、自分で選びました。
燐灯堂が残した言葉は、
「本日分のみ、保留」
「明日が未着なら、いずれ期限は参ります」
でした。
ソラを今日へ置く仕組みは、
今のところ機能しています。
けれど、いつまでも今日を開いたままにはできません。
今回、個人的に大切だった言葉は、
「届いた跡だから」
です。
焦げたしおりは、傷ついた証です。
けれど同時に、
ソラの声が明日へ届いた証でもある。
傷を消すのではなく、
傷があったことごと記録し、支える。
悠太の絵と鉛筆は、
今回もその役目を果たしてくれました。
そして夕方。
現在の澄とソラは、
閉じた絵本を間に置いて隣同士に座ります。
まだ絵本は開きません。
まだ何が起きたのかも分かりません。
ソラは澄へ、
「今は謝らないで」
と伝えます。
けれど、
「待ってたことは、なくさないで」
とも言います。
開かない。
謝らせない。
でも、なかったことにはしない。
ヨル編から受け継がれたものが、
ソラ自身の言葉になり始めています。
そして最後。
出席帳の綴じ目に、
青灰色の糸が見つかります。
今日の頁から伸びながら、
明日の頁には届かず、
分厚い帳面の間に挟まった糸。
まるで、ソラの名前そのものが、
頁と頁の間で息をしているような糸です。
ソラは触れません。
「今日は、触らない」
知ることと、変えることは別だからです。
次に向き合うのは、
帳が下りた夜。
そして、ソラの名前が
なぜ明日へめくられなかったのか。
第34話「また明日を言った子」。
読んでいただけたら嬉しいです。